3つの強みを活用することが重要−「国際化へのパートナー:香港」シンポ(1)−

(香港)

中国北アジア課

2012年06月06日

香港貿易発展局は5月15日、中小企業基盤整備機構とジェトロとの共催でシンポジウム「think GLOBAL think HONGKONG 国際化へのパートナー:香港」を開催した。その内容を2回に分けて報告する。

<中国へのゲートウエーの役割>
シンポジウムの冒頭で、香港貿易発展局とジェトロとの間で「業務協力に関する覚書」の調印式が行われた。両機関は今後、市場情報の共有、ビジネスミッションの相互派遣などを通じて協力関係を強化することで合意した。

シンポジウムでは、香港経済・市場の最新動向が紹介されたほか、香港と日本の有識者の間で、企業のビジネス展開における香港の活用法や香港の強みなどについて意見が交わされた。

香港の持つ強みとして、以下の3点が挙げられた。

1点目は、中国へのゲートウエーとしての役割だ。中国と隣接する地理的な側面に加え、中国・香港間の経済貿易緊密化協定(CEPA)を活用した対中ビジネス展開も考えられる。香港特別行政区政府の蘇錦●(木へんに梁、グレゴリー・ソー)商務経済発展長官は「CEPAを活用すれば、全ての品目の対中輸出においてゼロ関税措置が適用される。また、47項目のサービス分野において中国市場へのアクセスが緩和される。日本企業でも香港に法人を設立し、一定の条件をクリアすればCEPAの適用を受け、対中ビジネスを円滑に行うことができる」とCEPA活用のメリットを語った。

また、香港金融管理局の陳徳霖(ノーマン・チャン)総裁は「2011年の対中直接投資のうち、60%以上が香港からの投資だ。1979年以来、香港は一貫して中国にとっての最大の直接投資元となっている。同時に、中国から香港への直接投資も多い。中国の対外直接投資は、ここ3〜4年で急増し、11年には600億ドル規模となっているが、その6割程度が香港向けだ(香港を経由した投資を含む)」と述べた。このように、投資面でも香港は中国との密接な関係があるため、香港が今まで培ってきた対中投資のノウハウの活用も考えられる。

<金融センターとしてのメリット>
2点目の強みとして挙げられるのは、金融センターとしての役割だ。人民元オフショア市場の活用が香港を活用する新たなメリットとなっている。中国銀行(香港)の高迎欣執行役員兼副総裁は「流動性が高く、調達や決済が容易であること、人民元建て預金口座が多く存在すること、海外の企業にも広く門戸が開かれていることがメリット」と指摘した。

また、陳総裁は「人民元による貿易決済額は11年には約3,220億ドルに達し、中国の貿易決済額の約8%を占めた。人民元による貿易決済は09年から開始され、歴史は浅いものの、短期間で急速な伸びをみせている。香港の人民元建て預金残高は約6,000億元(1元=約12.1円)で香港の預金総額の約10%を占める」と述べた。

株式市場でも香港で資金調達を行う外国企業が増加している。香港貿易発展局によると、香港証券取引所の時価総額は2兆2,580億ドル(11年12月)、新規株式公開(IPO)による資金調達額は3年連続世界1位で、多くの外資系企業が香港での上場を果たしている。JPモルガン・チェース銀行(中国)の方方・最高経営責任者は「中国の投資家からのアクセスが容易であるとともに、中国でのブランド認知度をアップさせることができる」と指摘した。

また、陳総裁は「香港の金融市場は6時30分から23時30分までの長時間開かれており、ロンドン・北米の取引時間もカバーしている」と香港市場は時差のある海外の企業も利用しやすいことを強調した。

このほか、債券の発行による資金調達も盛んだ。点心債(人民元建て社債)についても発行額が年々増加しており、香港金融管理局によると11年の発行額は1,080億元に上ったという。

<高い透明性など中国と異なるビジネス環境>
香港の持つ強みの3点目は、中国へのゲートウエーとしての役割を持ち中国と密接な関係がありながらも、中国と異なるビジネス環境を持っている点だ。

その中でも特筆されるのが、法律面での高い透明性である。香港は英国のコモン・ローに基づく法制度を有し、「契約や知的財産権の保護が法律で保障されている」〔林天福(フレッド・ラム)・香港貿易発展局総裁〕点が、外国企業にとっては香港を活用する大きなメリットとなっている。また、政府の介入が少ない自由な経済であること、税制が簡素で低率なほか、英語能力のある人材が多いこともメリットの1つとして紹介された。オフィスワーカーにとどまらず、運送や建築現場の労働者にも、ある程度の英語能力が期待できるという。

このほか、シンポジウムでは中国に隣接するだけでなく「アジアの主要都市のハブになっている」〔陳南禄(フィリップ・チェン)・恒隆不動産社長〕という地理的なメリットも紹介された。

(河野円洋、細川裕貴)

(香港)

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