5ヵ国に対し安定・成長協定違反のリスクを指摘−欧州委、ユーロ圏の予算案を初めて事前審査−

(マルタ、EU、イタリア、スペイン、フィンランド)

ブリュッセル事務所

2013年12月02日

欧州委員会は11月15日、ユーロ圏のマクロ経済支援プログラムを実施中の4ヵ国(ギリシャ、アイルランド、キプロス、ポルトガル)を除く13ヵ国と、非ユーロ圏3ヵ国(リトアニア、クロアチア、ポーランド)が提出した予算案に対する意見を発表した。欧州委は今回初めて、ユーロ各国の予算案(2014年度)を自国の議会が承認する前に審査し、ユーロ圏全体の財政健全化の取り組み姿勢の概観を提示した。スペイン、イタリア、マルタ、フィンランド、ルクセンブルクの予算案に対しては安定・成長協定(SGP)の基準値に沿わない可能性があるとの厳しい見方を示した。

<ユーロ圏各国の予算案に欧州委が意見示す>
欧州議会とEU閣僚理事会(理事会)は、ユーロ導入国に対する財政監視強化策として、ユーロ圏各国政府の予算案を事前に審査する権限を欧州委に付与することで2013年2月に合意していた。これにより、ユーロ圏各国は予算案を自国議会に提出する期限である10月15日までに欧州委に提出することになっていた。ユーロ圏各国の計画案に欧州委が意見を示したのは今回が初めて。11月13日に発表された2014年の年次成長概観の発表の際にも、欧州委によるユーロ圏各国の予算案審査については予告されていた(2013年11月15日記事参照)

このほか、過剰財政赤字是正手続き(EDP、注1)に基づく理事会勧告の順守状況やSGPの収れん基準(財政赤字はGDP比3%以内、公的債務残高はGDP比60%以下を規定)違反の可能性について、そして一部の加盟国(スペイン、フランス、マルタ、オランダ、スロベニア)の経済連携プログラム(EPP、注2)に示されている構造改革案についての評価も発表された。

<スペイン、イタリアにSGP違反の可能性を指摘>
欧州委から厳しい指摘のあった一部の国の予算案に対する欧州委の見解は以下のとおり。

○フィンランド
予算案がSGPの基準に違反する可能性があると指摘。中間目標に向けた2013年の構造的債務赤字(GDP比)は0.5%に達しないとの見方を示した。公的債務(GDP比)についても2014年は上限である60%を超過するとみられている。EPPに基づく構造改革については進展がみられるとした。

○イタリア
予算案がSGPに違反する可能性があることを指摘し、特に2014年の債務削減基準に適合していないとした。また、構造改革の取り組みが限定的であることを強調した。欧州委は、一部の公的投資を財政収支の計算から除外することを認める「投資条項」を利用できないと結論付けた。経済成長と財政健全化との板挟みに苦しむイタリアにとって、同決定は大きな痛手になる。

○ルクセンブルク
構造的財政収支は2012年のGDP比0.8%の黒字から2014年は0.4%の赤字に悪化する見込み。中間財政目標のGDP比0.5%の黒字から大きく外れると予測し、SGPに違反する可能性があると指摘した。このため、SGPに違反しないよう必要な対策を講じるよう促した。構造改革については進展がみられたと評価した。

○マルタ
予算案がSGPに違反する可能性があることを指摘。また、EPPに基づく構造改革の進展が限定的と苦言を呈した。SGPに沿うよう必要な対策を講じるよう勧告した。

○スペイン
2013年は、EDPに基づくEU理事会勧告の順守状況について効果的な取り組みを行っていると評価。2014年の予算案については、財政赤字削減目標を達成する見込みがないことから、構造的財政赤字の改善が見込まれず、SGPに違反する可能性があると指摘。SGPの規定に沿うよう必要な対策を講じるよう勧告した。

<非ユーロ圏のクロアチアにはEDP適用を勧告>
○フランス
EDPに基づく理事会の勧告に向けた取り組みについては、2013年は効果的な取り組みを実施したと評価した。SGPの収れん基準についても、予算案が沿っていると分析した。一方、EPPに基づく構造改革の進展については限定的とし、構造改革を緊急に実施する必要性を強調した。財政運営を良好に保つためには今後大いに努力が必要になるとし、厳重な取り組みが必要だと指摘した。また、決定された年金改革では不十分であるとし、自由化(タクシー、獣医師、薬局、鉄道旅客輸送など)を進めることをあらためて呼び掛けた。

○クロアチア
2012年の財政赤字はGDP比5%に達し、上限を大幅に超えた。また、2012年の公的債務残高のGDP比は55.5%となった。欧州委の秋季予測においても、2013〜2015年の財政赤字はGDP比で3%を超えると予測され、2014年の公的債務残高は60%を超えるとみられている。このため、今後も規律違反が続く見通しであることから、EDPを適用することを理事会に対して勧告した。

これらの欧州委の意見は、11月22日に開催されたユーログループ会合で発表された。欧州委は、必要があれば、各国の議会や欧州議会で今回発表した意見についての説明を行うとしている。予算案は、各国内の議会で12月31日までに採択される必要がある。

(注1)EDPは、SGPで規定されている財政赤字と公的債務残高の基準値を逸脱した場合に発動される是正措置のこと。
(注2)EPPとは、EDPの対象となった国に対して、過剰赤字を効果的かつ持続的に是正するために必要な政策措置や構造改革を盛り込んだ報告書のこと。欧州委および経済財政委員会(EFC)に6ヵ月ごとに提出することが義務付けられている。
(注3)中間財政目標(MTO)は、SGPの予防措置として国別に定められた目標値。

(小林華鶴)

(EU・スペイン・イタリア・マルタ・フィンランド)

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