労働者の処分には労働法の内容の確認が必要−労務の基礎セミナーを開催−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2014年12月05日

ジェトロは10月27日、ベトナム日本商工会(JBAV)と共催で「はじめてのベトナム駐在〜覚えておいて欲しい労務〜」と題するセミナーをハノイ市内で開催した。ベトナムでは労働契約の一方的解除や規律違反に対する処分など、労働法をよく知ることが必要な労務問題が多い。在ベトナム日系企業の関心は高く、参加者は約140人に上った。

<労働契約の終了と規律違反への処分に高い関心>
今回のセミナーでは、日系企業が直面しやすい問題を中心として、これからベトナムでの実務に携わる駐在員を対象に基礎的な内容を解説した。前半では、長島・大野・常松法律事務所の澤山啓伍弁護士が労務の制度全般について説明した。後半は、AICベトナム(AIC Vietnam)の斉藤雄久氏が講師となり、行政による査察、規律違反に対する処分、労働組合費の納付の実務の解説をした。本稿では、セミナーのうち特に参加者の関心が高かった労働契約の終了と規律違反に対する処分について取り上げる。

労働契約終了事由のうち主要なものには以下の8種類がある。

○労働契約期間満了の場合
○契約に規定された業務が完了した場合
○両当事者が契約の解除に合意した場合
○社会保険を受けるのに必要な労働期間の条件を満たし、年金受給年齢に達した場合
○法人である雇用者が事業を廃止した場合
○懲戒解雇
○整理解雇
○労働契約の一方的解除

このうち、労働契約を雇用者が一方的に解除する場合についての注意点を澤山氏は以下のとおり説明した。

(1)労働契約の雇用者による一方的解除の事由
以下のいずれかの事由が必要となる。

○労働者が労働契約上の義務不履行を繰り返す
○労働者が法定の期間の療養後も勤務不能
○天災など不可抗力により、雇用削減が不可避
○労働者が労働契約の休止期間(兵役など)の終了後15日以内に職場に現れない

(2)労働契約を一方的に解除する場合の通知期間
雇用契約内容に応じて以下の通知期間が設けられている。

○無期契約:45日間
○12ヵ月から36ヵ月の有期契約:30日間
○12ヵ月未満の有期契約および長期間の療養後の勤務不能の場合:3日間

(3)労働者が違法に労働契約を一方的に解除した場合の労働者の責任
また、労働者が違法に労働契約を一方的に解除した場合には、労働者は以下の責任を負う。

○退職金を受け取れない
○雇用者に対して、1ヵ月分の賃金の半額を賠償する
○法定の解除予告をしていない場合、予告が必要だった期間分の賃金に相当する金額を雇用者に賠償する
○該当する場合、研修費用を雇用者に返還する

会場の様子(筆者撮影)

<規律違反事項の就業規則への記載が可能な場合も>
労働者の規律違反に対する処分について斉藤氏は以下のように説明した。

(1)処分の形式
規律違反に対する処分には、以下の3種類がある(労働法第125条)。

○戒告(口頭または文書)
○6ヵ月を超えない昇給期間の延長、免職(免職は国営企業の規定で降格に近い処分)
○解雇

(2)解雇処分の適用基準
以下の場合、労働者を解雇処分できる(労働法第126条)。

○窃盗、汚職、賭博、傷害行為、職場における麻薬の使用
○雇用者の経営・技術上の機密の漏えい、知的財産権を侵害する行為
○雇用者の財産・利益に甚大な損害をもたらす行為、あるいは特に甚大な損害をもたらす恐れのある行為
○昇給期間の延長処分期間中での再犯。または免職期間の処分期間中の再犯
○正当な理由なく月に5日、あるいは年に合計20日の無断欠勤

(3)処分の原則
規律違反処分を行う場合、以下の原則を守る必要がある(労働法第123条)。

○雇用者による労働者の過失の立証
○事業所における労働組合の代表部の参加
○労働者の出席
自己弁護、弁護士・他者に弁護を依頼する権利を有する
○処分の文書化

(4)規律違反処分の際の禁止事項
規律違反処分を行う場合、以下の事項が禁止されている(労働法第128条)。

○身体、人格への侵害行為
○罰金、賃金の減額処分
○就業規則で規定しない違反行為での規律違反処分

(5)規律違反処分事項の就業規則への記載上の留意点
規律違反処分について就業規則へ記載する場合、以下の点に留意する。

○解雇処分について定めた労働法第126条にある内容以上の記載があると、就業規則の登録を認めない労働局もある。その場合、別途社内規程を設けて、人事考課を昇給、賞与などに反映する方法がある。
○労働法第126条の記載内容以上での登録を認める当局の管轄地域では、「雇用者の財産、利益に甚大な損害をもたらす、あるいは特に甚大な損害をもたらす恐れのある行為」に関して、より具体的な内容の記載が可能。ただし、損害額を具体的に記載する必要がある。
○就業規則のない企業の場合、労働法の規定に基づき規律違反の処分を行う。

<能力不足を理由にした解雇はできない>
質疑応答では出席者から労務管理に関する質問が多く寄せられた。主な質問と回答は以下のとおり。

問:従業員が遅刻して出社した場合、給与から遅刻した分を減額することは可能か。

答:給与が月給で決まっている場合は、遅刻を理由とした減給はできない。

問:従業員の能力不足を理由に解雇することは可能か。

答:できない。犯罪行為をした場合などは解雇することができる。

問:解雇処分を適用するに当たり、本人が職場に出社しない場合はどのような手続きを行えばいいか。

答:地域ごとで手続きは異なる。内容証明付き郵便を送付して解雇が認められる場合もあるため、確認が必要。本人が出社しないのであれば依願退職させるのも1つの方法だ。

ベトナムの労働法は労働者保護の傾向が強いことから、労働者を処分する場合には注意すべき点が多い。労働法の内容をよく確認するとともに、専門家と相談の上、適切な手続きを進める必要がある。

(植松利宏)

(ベトナム)

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