日印双方が技術協力を推進-安倍首相訪印に合わせイノベーションセミナー開催-

(日本、インド)

アジア大洋州課、ニューデリー事務所

2015年12月22日

 安倍晋三首相のインド訪問に合わせ、ジェトロは12月11日、「日本・インド・イノベーションセミナー」をニューデリーで開催した。日本の科学技術・産業技術・インフラ技術に対するインドの関心は非常に強く、セミナーには約450人が参加した。安倍首相は日本とインドの技術協力の推進に強い意欲を示していることから、先進技術をテーマにしたセミナーの開催も、2014年1月の安倍首相の前回訪印時に続いて2回目となる。

<これまで以上に注目集めた安倍首相訪印>

 日本とインドは2006年以来、「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」の下、首脳の訪問を毎年相互に実施している。モディ首相は20145月の就任後、近隣諸国を除いて、主要国初の外遊先として同年9月に日本を訪問。安倍首相の訪印は20141月以来となる。今回の首相訪印に先立つ128日、日本で「日印両国は、インド初の高速鉄道建設について、日本の新幹線方式の採用で合意」と報道され、さらにインドでも「政府が1210日、日本の新幹線方式を導入することを閣議決定した」という情報が流れたこともあり、これまで以上に注目度の高い訪印となった。両首脳は1212日の首脳会談の場で、ムンバイ~アーメダバード路線への日本の高速鉄道技術(新幹線システム)導入に関する協力に係る覚書に署名した。また、日本の原発輸出の前提となる原子力協定に原則合意がみられたほか、モディ首相が推進する「メーク・イン・インディア」プロジェクトの実現を支援し、日本企業のインドでのビジネス機会を後押しするために、日本貿易保険(NEXI)と国際協力銀行(JBIC)による最大15,000億円の「日印メーク・イン・インディア特別ファシリティー」を設けることなどが確認された。

 

3セッションに計20人が登壇>

 ジェトロは、安倍首相訪印初日の1211日、ニューデリーで「日本・インド・イノベーションセミナー」を開催した。セミナーでは、最先端の科学技術を有する日本企業、関係省庁や政府機関、大学の代表、さらにインド政府の代表など計20人が講演した。

 

 主催者あいさつに登壇したジェトロの赤星康副理事長は「大きなポテンシャルを有するインド市場には、国内市場向けのみならず、輸出志向型の製造業など、より多角的な分野での投資が期待されている」とした上で、「2国間の経済関係を新たな段階へ高めるためには、双方の強みを生かした企業連携、双方向での貿易・投資の拡大、さらには、2国間の枠組みを超えた第三国や広域での協力が重要だ」と結論付けた。

 

 「日本・インドの科学技術協力」をテーマとした第1セッションでは、文部科学省の戸谷一夫文部科学審議官が「今回の安倍首相の訪印で人材交流の新たな2国間協力を取り決めた。日印大学間交流を支援するための特別なプログラムを既に立ち上げており、今後は両国産業界に、インターンシップへの学生受け入れをお願いしたい。今後ますます日印の共同研究や人材交流を加速させる」と述べた。これに対し、インド科学技術省のアシュトシュ・シャルマ次官は「両国の研究機関はさまざまなかたちで既に交流を開始しているが、今後はビッグデータといったデジタルテクノロジー、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)の3分野で交流を進め、発展の余地が残された留学生交流にも注力したい」と応じた。

 

 「日本・インドの産業イノベーションが社会を変える!」と題した第2セッションでは、インドで長年、ビジネスを営む日本企業が登壇。インドに15,000人の社員を抱え9つのデータセンターを設置するNTTコミュニケーションズ、40年以上前からインドでグラフィック製品を販売する富士フイルム、2004年からアンドラ・プラデシュ州に工場を設け、薬の研究開発や生産を行うエーザイなどが、自社のインド事業の概要について紹介した。セッションの最後に登壇したインド商工省のアミタブ・カント次官は、「日本にはブランド力、イノベーション、完璧主義という強みがある。日本製品の価格は決して安くないが、インドで研究開発・製造することで、価格競争力を増してほしい。そして、インドから世界市場を狙っていただきたい。日印は協働するためのベストパートナーだ」と締めくくった。

 

<日本の新幹線のメリット強調>

 「日本の質の高いインフラとインドへの貢献」をテーマとした第3セッションでは、新幹線技術の導入の旗振り役であるJR東日本の冨田哲郎社長が最初に登壇し、「インドに日本の新幹線を導入することのメリットは、高速、頻繁な運行・大量輸送、環境への配慮、安全性、信頼性だ。それを実現するためには、人材育成が重要で、われわれはそのノウハウを提供できる。効率性と収益性を確保するため、トータルライフサイクルコストを最小化しなければならない。日本の新幹線技術をパッケージで採用すれば、それを実現できる」と期待を込めた。続いて、洗浄水を節約できる低価格トイレや、排せつ物を肥料に変えるグリーン・トイレなどの技術を持つLIXILや、インドの高速道路整備を技術支援する東日本高速道路、「ソーシャル・イノベーション・ビジネス」を掲げ、インドで多くのインフラビジネスを手掛ける日立製作所が登壇した。

 

 セミナー最後のクロージングセッションから参加した安倍首相を、インド工業連盟(CII)、インド商工会議所連盟(FICCI)、インド商工会議所連合会(ASSOCHAM)の地場商工3団体トップが歓迎。安倍首相はあいさつで「アジアの2大民主主義国である日本とインドの関係は、世界で最も可能性を秘めた2国間関係」とした上で、インド経済界に対するメッセージとして、「私の就任以来3年間で、日本経済は復活を遂げた」「再生した日本をその目で確かめていただき、日本に投資していただきたい。モディ首相に倣って申し上げれば、『Come, invest in Japan!』だ」と対日投資の検討を促した。最後に「日本とインドでさらなるイノベーションの種を植え、育て、花を咲かせよう。科学技術分野における日本とインドの協力は、両国だけでなく、世界中の課題の解決に資する」と述べ、あいさつを締めくくった。

(西澤知史、古屋礼子)

(日本、インド)

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