GSPの原産地証明、自己証明制度へ移行始まる-受益国によって異なる適用開始時期-

(EU)

欧州ロシアCIS課

2017年01月20日

 EUは一般特恵関税(GSP)の原産地証明について、登録輸出事業者による自己証明制度を2017年1月1日に導入した。登録輸出事業者による自己証明制度への移行期間は受益国ごとに異なるが、最長で2020年6月30日まで。移行期間が終わると、6,000ユーロを超える貨物の引き渡しでEUのGSPの特恵を適用するには、従来のフォームAの代わりに登録輸出事業者による原産地宣誓(statement on origin)を添付しなければならない。フォームAを使用して輸出している事業者は、移行期間が終わるタイミングに注意する必要がある。



<2017年1月からREXシステムが稼働>

 GSPとは、途上国向けに関税の減免を認める制度。EUのGSPを適用するには、EUへ輸出する貨物が同制度の受益国からの原産品として認められるための要件である原産地規則を満たし、輸出時にそれを証明するための原産地証明書を添付する必要がある。これまでEUのGSP制度では、輸出事業者の申請に基づき、受益国の政府所管機関がフォームAと呼ばれる原産地証明書を発行してきた(注1)。

 

 2017年1月1日からは、登録輸出事業者システム(Registered Exporter system:REXシステム)の運用が開始され、同システムに登録された登録輸出事業者自身が原産地宣誓をする方式への移行が進められる(注2)。これにより原産地証明書は、インボイスなどの商業書類に登録輸出事業者が原産地宣誓を付記することに取って代わる。ただし、6,000ユーロに満たない貨物の引き渡しの場合には、登録されていない輸出事業者が原産地宣誓をすることが認められている。

 

 REXシステムは、新制度全体を指すのと同時に、欧州委員会が作成した本制度のデータを管理するITシステムの名称でもある。REXシステムの導入により、EUのGSP制度自体に変更はないが、原産地の証明方法のみが変わる。

 

 REXシステムの主な機能は以下のとおり。

○輸出事業者の登録:輸出事業者の申請用紙に基づき、受益国の管轄当局が登録する。

○登録済みデータの修正:登録輸出事業者は、登録内容に変更が生じた場合には管轄当局へ変更を通知する義務がある。変更の通知を受けた管轄当局は、REXシステム上で修正をする。

○登録済み輸出事業者の取り消し:登録された事業者が存在しなくなったり、不正行為を働いたりした場合、REXシステムから取り消される。理由によって、事業者自身からの要求に基づく取り消しや、管轄当局の判断による取り消しがある。

 

<原産地宣誓には指定の事項を含める>

 REXシステムには、GSP受益国で設立された輸出事業者、2国間累積活用のためGSP受益国へ輸出するEUで設立された事業者、REXシステムが適用されるEUとの自由貿易協定(FTA)を締結している第三国へ輸出するEUで設立された事業者、仕向け地変更によりGSP受益国で作成された原産地証明を書き換えるEUで設立された事業者が登録される。登録申請する輸出事業者は、申請用フォーマット〔欧州委実施規則(IA)2015/2447のAnnex22-06〕に記入の上、受益国(EUで設立された事業者の場合はEU加盟国)の管轄当局に申請する。

 

 輸出事業者は、GSP制度の原産品である品物を輸出する際、インボイスなどの商業書類に原産地宣誓を付記する。欧州委実施規則2015/2447のAnnex22-07で指定された事項を含み、英語、フランス語、スペイン語のいずれかで記載しなければならない。原産地宣誓は、受益国の登録輸出事業者からEU内の顧客(輸入者)に提供する。原産地宣誓は輸出事業者によって行われた日から12ヵ月間有効で、貨物ごとに行わなければならないが、一部複数の貨物に適用できる場合がある(注3)。

 

 原産地宣誓を作成する輸出事業者は、税関などの求めがあった場合、いつでも当該製品の原産性を証明する資料などを提出する義務が課せられていることに留意する必要がある。これらの資料は原産地宣誓とともに、作成した年の年末から最低3年間保存しなければならない。電子媒体での保存でもよいが、当該製品の製造に使用された原材料とその原産性が明らかにされたものでなければならない。

 

<REXシステム上のデータ公開、原産地宣誓の有効性を確認>

 REXシステムに登録されたデータは公開され、指定のウェブサイトで検索できる。申請の際、事業者は自身のデータを全て公開するかどうかを選択できる。全ての登録データの公開を希望しない場合でも、事業者のREX番号、登録が有効となった日、(REXシステムから取り消された場合は)登録取り消し日などは公開される。

 

 REXシステム上で検索することで、GSPの特恵を受けるEUの輸入事業者や、地域累積を適用して他のGSP受益国の登録輸出事業者が作成した原産地宣誓を使用するGSP受益国の登録輸出事業者は、原産地宣誓の有効性を確かめることができる。

 

<REXシステム適用開始時期は3段階で延長も可能>

 REXシステムへの移行は2017年1月1日に開始されたが、受益国は2016年6月30日まで、欧州委に対し同システムの適用を遅らせるための通知をすることができた。また効果的にREXシステムの適用をするためには、受益国は以下の2つの条件を満たさなければならない。

 

○REXシステムの枠組みにおける行政協力の保証を欧州委に提出する(欧州委実施規則2015/2447の70条)

○輸出事業者の登録と行政協力を管轄する当局のコンタクト先を欧州委に通知する(欧州委実施規則2015/2447の72条)

 

 移行期間のイメージを図に示すと以下のとおり。受益国は、REXシステムの適用開始後12ヵ月間は、従来のフォームAと登録輸出事業者による原産地宣誓を並行して使用することができる。移行期間が12ヵ月では不十分な場合、受益国は追加で6ヵ月間の移行期間延長申請が可能だ。最も遅い2019年1月1日から適用開始の受益国が6ヵ月の延長をした場合、2020年6月30日が最終日となる。


図 2017年1月1日からREXシステムの適用を開始した場合の移行期間のイメージ



 各受益国のREXシステムの適用開始には3つの時期がある(表参照)。2017年1月1日から適用を開始したのは、適用のための2条件を満たした受益国と適用を遅らせる通知をしていない受益国。これらの国々の輸出事業者については、国が移行期間の延長申請をしなければ2018年1月1日以降、延長申請をした場合でも2018年7月1日以降は従来のフォームAによるGSP適用は認められなくなるため、早めにREXシステムに登録をする必要がある。


表 受益国ごとのREXシステム適用開始時期



(注1)ただし、6,000ユーロを超えない貨物では、フォームAの代わりにインボイスへの原産地宣誓が可能。

(注2)REXシステムについての欧州委のウェブサイトおよびGSPの原産地規則ガイド(2016年5月)を参照。

(注3)以下の要件を満たしている場合には、単一の原産地宣誓で複数の貨物をカバーできる。(1)関税率表の解釈に関する通則2(a)の意味で、「分解された、あるいは組み立てられていないもの」、(2)HSコードの16、17部あるいは7308、9406項の製品、(3)分割して輸入される予定のもの。

 

(深谷薫)


(EU)

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