欧州委、「米国とのTTIP交渉は停止状態」との見解示す

(EU、米国)

ブリュッセル発

2017年02月01日

 欧州委員会のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は1月31日、EUが米国と進めてきた「包括的貿易投資協定(TTIP)」交渉が、トランプ米政権の誕生に伴って停止状態にあるとの見解を示した。欧米自動車業界の3団体からの要望書に対する回答の中で明らかにした。しかし、これまでの交渉で、共通の自動車安全基準に関する合意形成は相当進んでおり、自動車団体側もトランプ政権の通商政策を注視しつつ、「長期戦」を辞さない構えだ。

<欧米の自動車3団体宛てに回答書>

 欧州委員会が131日付で公開した「欧州自動車工業会(ACEA)」「米国自動車工業会(AAM)」「全米自動車政策評議会(AAPC)」の3団体に宛てた回答書の中で、マルムストロム委員は「双方の利益を両立する自動車安全基準の実現と、EUと米国あるいは国連・欧州経済委員会(UNECE)の下で策定・改正が進められてきた『国連の車両などの世界技術規則協定(1998年協定)』の枠組みでの相互協力の促進について、EUと米国の自動車分野の専門家・政策担当者による広範な協議を重ねてきた。この分野の成果は極めて大きい」とし、3団体によるこれまでの協力に謝意を述べた。しかし、「米国の大統領選挙の結果、TTIP交渉は停止状態に陥った」との厳しい見方も示した。

 

 3団体は大統領選挙後の20161125日に、自動車安全分野でのEUと米国の当局間の「規制協力」をTTIPの中で進めることを求める要望書を欧州委に提出していた。

 

 この中で、欧米の自動車産業を代表する3団体は「自動車安全基準をめぐるEUと米国の当局間の連携強化の結果、双方の相互理解はこれまで以上に進んでいること」「(この結果)野心的な交渉成果の実現が射程に入ったこと」を明言。さらに、EU・米国の双方は「同等」と見なし得る基準や規制のリスト作成なども進め、自動車分野での合意形成は近い(「within reach」)との認識を示していた。

 

<交渉合意事項のリスト化を要求>

 他方、3団体は「米国の政権交代に伴うTTIP交渉の停滞は不可避」との懸念も表明。これまでの双方の努力を無駄にせず、交渉の成果が出るよう欧州委に注文を付けていた。具体的には「EU・米国の双方で既に『同等』と見なすに至った自動車安全基準・規則に関するリスト」「おおむね『同等』と見なすに至ってはいるが、幾つかの技術的要件を満たす必要のある自動車安全基準・規則に関するリスト」「規制協力を通じて調和が進みつつある追加的な自動車安全基準の進捗状況」「1998年協定に基づく自動車基準調和世界フォーラム(WP29)の作業成果を強化し優先的に取り組み、世界統一技術基準(GTRs)をより多く採用するための共通理解」「EU・米国双方の連携によって進める自動車安全基準に関する研究についての実務作業」などを文書化し、「交渉再開」に備えるべきとしている。

 

(前田篤穂)

(EU、米国)

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