インフラ投資促すPPP法の柔軟性増す-中南米の制度改定動向-

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2017年04月06日

 民間の資金やノウハウを活用したインフラ投資を促すため、政府は官民連携法(PPP法)を制定した。PPPの法制化による明確な法的枠組みを実現したことで、公共事業での約400億ドルの資金流入を期待する。

インフラ投資のGDP比はわずか3%前後

アルゼンチンは、2003年からの10年間で、年平均5.7%の経済成長率を遂げたにもかかわらず、GDPに占めるインフラ投資の割合はわずか3%前後にとどまった。インフラ整備が進まなかったことで、今もなお電力、交通、住宅、下水道、医療施設などでの問題が深刻化している。国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(CEPAL)および世界銀行のデータを用いて公共政策を主に調査したシンクタンクのシペックは、1990年代のGDPに占めるインフラ投資の割合は6%に達していたとし、2000年以降の15年間でインフラ分野への投資が半減したことが、電力供給の低下やロジスティクスおよび生産コストの上昇を招いたとしている。ジェトロが毎年実施している進出日系企業アンケートでも、投資環境面のリスクとして「インフラの未整備」と回答している企業は40%を超えている(最新の2016年版アンケートでは43.5%)。

インフラ投資の必要性が増している中、マクリ政権は民間資金やノウハウを活用する官民連携(PPP)方式によるインフラ整備により、持続的な経済成長と雇用創出を目指すことが重要と主張してきた。

こうした中、2016年11月30日付でPPP法第27328号が公布された。また、2017年2月20日付で、同法を規定する政令第118/2017号も公布された。PPPに関しては、2005年8月施行の政令967号が既に存在していたが、PPPプロジェクトに対する融資のための奨励措置を定めていない不完全な法的枠組みとの指摘もあり、これまで活用されていなかったため、同政令は今回廃止された。

民間企業の参加意欲を高めるPPP法

今回のPPP法は、契約の際、各事業の必要性とファイナンス状況に合わせて柔軟性を持たせ、民間の参画意欲を高めようとしているのが特徴だ。対象となるのは、インフラ、住宅、事業とサービス、生産性向上、応用研究、技術イノベーションに関連した事業開発促進を目的とするプロジェクト(設計、建設、拡張、修繕、保守、資材調達、開発または運営、資金調達のうち複数を対象にすることも可能)で、人材、資材、装備の提供のみが目的のプロジェクトは対象外としている。契約期間は35年を上限とし、政府による一方的な契約変更の権限を制限する。事業者の選定は、公共入札、国内または国際入札などを通じて行われる。契約に際し、請負側の報酬も柔軟化された。従来の法律(23928号)で規定されていたインデクセーション禁止を排除、つまり外貨でも可能となる。これにより、ドルに対するアルゼンチン・ペソの長期的な切り下げを懸念する企業も参加しやすくなる。

柔軟性に関しては、プロジェクトに必要な財の調達に関しても当てはまる。同法には使用される財およびサービスに関しては最低33%が国産と定められているが、正当な理由が存在すれば例外も認められる可能性は検討され得るとしている。また、環境・持続可能開発省が、入札前にPPP事業のフィジビリティーを審査することも法律に含まれた。

さらに、紛争解決手段として、国内または国際法の仲裁を認めるとする条項が加えられた。野党側は反発しているが、政府は、この条項がなくては国外からの長期的な投資誘致は不可能だとし、法的安定性を提供するためにも必須だと主張している。国際法の適用に関しては、政府と国会の承認が必要だ。

このほか、PPP法の枠組み内で開発されるプロジェクトは「国益」と見なし、全てのPPP契約書および下請契約書に対する印紙税の免除を促している(政令第118/2017号)。PPP事業を管理する「PPPユニット」が金融省傘下に設けられ、財務省の支援を受けることになる。

南米では、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ペルー、コロンビア、チリ(コンセッション法)が既にPPP事業を活用しているため、アルゼンチンにおいても同様の法制度制定の必要性が訴えられていた。政府は、今回のPPP法制化によって、公共事業に約400億ドルの資金流入が期待できるとしている。

(山木シルビア)

(アルゼンチン)

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