加盟国に対する貿易救済措置の発動を容易に-NAFTA再交渉の目的公表(2)-

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2017年07月21日

米通商代表部(USTR)が7月17日に公表した、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の目的公表の後半は貿易救済措置について。USTRは、アンチダンピング(AD)や補助金相殺関税(CVD)措置に関する特別な紛争解決制度やセーフガード措置の適用除外の撤廃を目指す考えを示している。これらの措置が撤廃されれば、NAFTA加盟国に対する貿易救済措置の発動が容易になる。

ADやCVD措置めぐる制約の撤廃を目指す

USTRは7月17日に公表したNAFTA再交渉の目的PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の中で、貿易救済措置の発動に関する条項を見直す方針を示した。「ADやCVD、セーフガード措置などの貿易措置を厳格に発動するための米国政府の能力を保持する」とし、AD・CVDの発動に関する紛争解決制度を設置したNAFTA19章外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますや、セーフガード措置発動に関わるNAFTA加盟国の適用除外を定めたNAFTA802条外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの撤廃を目指す考えを示している。

NAFTA19章は、加盟国間でのAD・CVD措置(注1)の発動に際して、当該措置の妥当性を2国間パネルで審査する紛争解決制度を設置している。AD・CVD措置の発動が輸入国の国内法にのっとって行われたかを審査するもので、加盟国の措置がWTO協定の規定に適合したものであるかを審査するWTOの紛争解決手続きとは判断基準が異なる。

本制度はもともと、米国・カナダ自由貿易協定(1989年発効)において、米国のAD・CVD措置の適用除外を獲得しようとしたカナダ政府の主張を米国政府が一部受け入れるかたちで盛り込まれ、メキシコの支持も受けてNAFTAに引き継がれた。1980年代から続く米国・カナダ間の針葉樹材紛争では、同制度に基づき、カナダ政府が米国政府を提訴し勝訴した事例がある。

ピーターソン国際経済研究所(PIIE)シニアフェローのチャド・バウン氏は、NAFTA加盟国の間においてAD・CVD措置の発動が少ないことを指摘し、NAFTA19章により発動が抑制されてきたことを理由の1つに挙げている(注2)。その上で、「同条項を撤廃すれば、カナダやメキシコに対するADやCVD措置の発動は増加する」との見方を示した。

なお、米国政府は、4月24日にカナダ産針葉樹材に対するCVDの暫定適用を、6月26日にはAD税の暫定適用を決定している(2017年5月15日記事7月3日記事参照)。本件の提訴を行った米国木材連合(U.S. Lumber Coalition)は「NAFTA19章は、憲法違反であり、実際には機能せず、カナダとメキシコによる不公平な貿易慣行に対する米国の貿易救済措置の執行を数十年にわたり妨げ、米国の企業や労働者に損害を与えてきた」との声明を出し、米国政府が19章の撤廃を再交渉目的に含めたことを歓迎している。

トランプ政権は、外国の「不公正な」貿易慣行を是正するため、政府が自主的に貿易救済措置を発動していくことも含め、ADやCVDなどの貿易救済措置をこれまで以上に積極的に活用する方針を示している。

セーフガードの適用除外も撤廃へ

USTRはまた、セーフガード措置の発動対象からNAFTA加盟国を除外するNAFTA802条の撤廃も交渉目的に含めた。セーフガードは、特定品目の輸入急増により国内産業に重大な損害が生じている場合などに、同品目の輸入に対する関税の賦課や輸入数量制限を許可するWTO上の制度だ。

セーフガードは、国内産業保護が目的であるため全ての国からの輸入に対して適用することが求められるが、NAFTA802条は原則加盟国を適用対象外とすることを定めている(注3)。実際、ブッシュ政権は2002年3月、鉄鋼製品14品目に対するセーフガード措置を発動し、日本を含む他国からの輸入に対して通常の最恵国(MFN)関税に加えて8~30%の関税を課したが、メキシコとカナダからの輸入は適用除外としている。NAFTA802条が撤廃されれば、メキシコやカナダに対するこうした特例扱いが取り除かれる。

なお、トランプ政権は現在、太陽光発電パネルの輸入に関するセーフガード措置の発動に関わる調査を実施している。

(注1)AD関税措置とは、輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出が、輸入国の国内産業に被害を与えている場合に、価格を正常な価格に是正する目的で、価格差相当額以下で賦課される特別な関税措置を指す。CVD措置とは、政府補助金を受けて生産などがされた貨物の輸出が輸入国の国内産業に損害を与えている場合に、当該補助金の効果を相殺する目的で賦課される特別な関税措置を指す。制度の詳細は経済産業省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。

(注2)ピーターソン国際経済研究所開催セミナー資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(A Positive NAFTA Renegotiation: Part 2、7月17日開催)参照。

(注3)セーフガードの対象製品について、NAFTA加盟国からの輸入が直近3年間の輸入シェアで上位5位以内である場合などの場合には、加盟国に対してもセーフガード措置の発動が可能。

(鈴木敦)

(米国、カナダ、メキシコ)

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