最新技術への消費者の認識にギャップも-「英国消費市場の将来」セミナー(2)-

(英国)

ロンドン発

2017年08月30日

「英国消費市場の将来」セミナー(7月13日)では、消費者の生活に大きな変化をもたらす技術やこれに対する英国消費者の認識なども紹介された。コネクテッドカーなど全ての技術を英国の消費者が好意的に捉えているとは限らないことが指摘されたほか、消費者ニーズを踏まえた技術開発の在り方などの説明もあった。連載の後編。

自動走行車への理解は不十分

現在の消費市場には、次々と新しい技術が投入されている。新技術を市場に浸透させるためには消費者への的確な訴求が重要になるが、GfKのジャック・バーグクイスト英国自動車産業部長は「消費者の日常生活と価値観に訴え掛けることが必要」と話した。同社の調査によると、英国の消費者は「時間とお金の節約」や「家族・友人とのつながりの維持」「健康の保持」などのために、さまざまな技術を用いる傾向にある。

バーグクイスト部長は、英国消費者の生活に影響をもたらす技術についても説明した。コネクテッドカー、電気自動車、自動走行車、スマートホームなどが、今後5年以内に英国の消費者生活を変えることになるという。

しかし、これらの技術に対する英国消費者の認識が好意的とは限らない。まず、インターネットに接続され情報収集・解析なども行うコネクテッドカーについての同社の調査によると、若い世代で購入意欲が高いものの、英国における平均的な車両購入年齢は55歳を超え、購入意欲と購買行動とで世代間のギャップが存在する。また、36歳以上の回答者の42%、35歳以下でも37%が自動車を単なる移動手段としてしか捉えておらず、自動車自体への関心が低下しつつある。

自動走行車については、消費者の理解が乏しいことが浮き彫りになった。英国消費者の65%が、飲酒後に自動走行車の運転ができないことを知った途端に関心を低下させている。また、52%が自分で車両を制御できなくなることを否定的に捉えている。安全性を理由に自動走行車購入の意思を示す消費者は全世界平均では31%なのに対し、英国では20%にとどまっており、安全性を売りに自動走行車を英国の消費者に訴求するのは難しそうだ。

一方で、消費者の好意的な反応が広がる技術もある。ウエアラブル技術、IoT(モノのインターネット)、eコマースなどがそうだ。例えば、2016年におけるウエアラブル装置の欧州での売上高は前年比45%増加した。IoTについては他者とのつながり確保の欲求から期待が高まり、eコマースは買い物時間の短縮を理由に人気が高まっている。バーグクイスト部長は「IoTやeコマースのソフトウエアとも関連付けた開発を行えば、自動走行車の購入意欲が上昇するかもしれない」とコメントした。

消費者をデザインプロセスの中心に

最後に、ポール・シンプソン産業部長が、スマートホームを引き合いに、GfKが実施したケーススタディーの結果を紹介するかたちで、消費者に支持される技術や商品開発の在り方を説明した。歴史的にエンジニアリング企業は、消費者のニーズへの対応よりも技術の進歩を優先してきたが、現代の消費者は自分の欲求を満たしてくれる技術を重視する。同社の調査によると、現在脚光を浴びているスマートホームが自分のニーズを満たしていると回答したのは7%にすぎず、全くニーズを満たしていないと回答した消費者は23%に上った。

英国の消費者で相対的にスマートホームに高い関心を示しているのは、親の介護と子育てに追われる中年層の「サンドイッチ世代」だ。ただし、やみくもに「サンドイッチ世代」にスマートホーム技術を売り込めばよいという話ではない。ニーズの絞り込みが必要で、これを踏まえた策が重要になる。調査によると、「サンドイッチ世代」がスマートホームに対して抱くニーズは、「健康」「家族支援」「家庭管理」「安全」の4つに集約される。さらに、技術開発は消費者を巻き込んで行うことが必要で、これがイノベーションの端緒にもなる。最終的に商品化の可否を決する場合にも、消費者を関与させる仕組みが有効だという。

このような技術開発の手法を用いて、GfKは「ネイバーフッド(隣人)パルス」と呼ばれる新たなソフトウエアのアイデアを考え出した。これは、高齢者支援などに用いるもので、隣人などを支援者として事前に登録することで、手助けが必要な場合に最適な支援者を探すことができる仕組みだ。同社がこのアイデアへの消費者の評価を調査したところ、実現可能性と関心度の双方について8割以上の肯定的な回答を得ている。この事例からも分かるとおり、これからの技術開発には総じて、消費者をデザインプロセスの中心に置くことが重要といえるだろう。

(キャサリン・ロブルー)

(英国)

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