既存協定の改定を含め、FTA交渉を引き続き推進-中南米主要国の通商政策と地域統合をめぐる動き-

(チリ)

サンティアゴ発

2018年02月22日

チリはオープンな経済政策を積極的に推進しており、自由貿易協定(FTA)カバー率は93.1%(2016年)と世界トップクラスだ。2016年以降、ウルグアイ、アルゼンチン、インドネシアとのFTAに署名し、中国とは深化協定に署名、インドとは部分到達協定の拡張協定発効など、既存協定の改定に意欲的だ。2018年3月8日には「包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」(いわゆる「TPP11」)の署名式がチリで行われる予定になっており、今後も引き続き自由貿易の推進が図られていく見込みだ。

2016年以降、既存協定の拡大・深化に注力

チリの南米内での協定については、既存協定の拡大・深化という動きが最近目立つ。対ウルグアイ、アルゼンチンについては、もともと南米南部共同市場(メルコスール)との間で経済補完協定(ACE 35)が発効しているが、2016年10月に署名されたウルグアイとのFTA、2017年11月に署名されたアルゼンチンとのFTAに関しては、電子商取引や越境サービス貿易など新たなテーマが追加になっている。

中国に関しては、既に発効しているFTAの内容を深化させる旨の署名が、ベトナム・ダナンのAPEC会場で2017年11月11日に行われた。対中FTAは2006年に発効したが、今回はFTAの除外製品だった林産物、硝酸塩、紙やダンボールなどの関税撤廃や、電子商取引および電気通信、原産地規則、原産地証明書、税関手続き、貿易円滑化、環境・経済・技術協力、公的調達などの項目が改定の対象となった。

2017年5月16日には、インドとの部分到達協定の拡張協定が発効した。減免対象の品目数は、インドにおけるチリ製品が1,100品目、チリにおけるインド製品が2,099品目となった。ちなみに、2007年8月の発効時はそれぞれ296品目、266品目にすぎなかった。チリ製品の品目では食料品などが新たに対象に含まれており、今後のインド市場向け輸出拡大が見込まれる。一方、インド製品のチリでの輸入については新たに自動車関連部品などが対象となっており、今後の両国間の貿易拡大が期待される。

インドネシアとは、2017年12月14日に包括的経済連携協定(CEPA)への署名が行われた(2017年12月27日記事参照)。同協定の発効により、インドネシアはチリ製品の9,308品目に対して、チリはインドネシア製品の7,669品目に対して関税を撤廃することとなる。

2018年3月にはチリでTPP11の署名式

既存協定の拡大・深化を目指した協定は、他の地域に関しても進んでいる。EUとは2003年にEPAが発効しているが、15年が経過し、深化に向けた交渉を2018年1月から開始している。韓国については2004年にFTAが発効しているが、深化に向けた交渉開始に関する署名が2016年11月に行われた。テーマには、サービス、投資、電子商取引へのアクセスなどの項目が含まれている。また、韓国とのFTAについては、前回のFTA交渉でチリ製品370品目が関税減免の対象から除外され、20~50%の関税がかかっている。今回の交渉においては、これら例外品目についての関税撤廃案が含まれている。

CPTTP(いわゆる「TPP11」)は、2018年3月8日にチリで署名が行われることが予定されている。米国のTPP離脱表明後、初めてとなった閣僚会合が2017年3月15日に開催されたのもチリのビーニャ・デル・マル市だった。当時、太平洋同盟議長国のチリは積極的にイニシアチブを取り、太平洋同盟加盟国、TPP署名国、東アジア主要国の参加を実現させた。その後、5月21日にベトナム・ハノイで閣僚会合、7月12~14日に日本の箱根で首席交渉官会合、9月21日に東京で首席交渉官会合が行われ、10月30日~11月1日には横浜で高級事務レベル会合を開き、大筋合意を目指して協議を加速することで一致。11月10日にベトナム・ダナンで行われた閣僚会合において、大筋合意に至った。

チリ国際経済関係局(Direcon)のフェリペ・ロペアンディア首席交渉官は「実質的に協定内容は同じなので、チリにとって商業的利益は前回交渉時と変わらない。チリにとって、TPP署名国市場へのアクセスは依然として有益だ」とコメントしている。3月8日の署名式は、大統領交代(3月11日)直前のバチェレ大統領にとって最後の外交行事となる。ちなみに、3月11日に就任予定のピニェラ大統領も、その公約の経済政策で「グローバルへの統合フェーズ3」と称し、現行で不足している通商協定に関する交渉を行うとしており、現政権の方向性を実質的に継承することを示唆している。

(中山泰弘、岡戸美澪)

(チリ)

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