50年以上クリーニングサービスを提供-香港のサービス産業市場(5)-

(香港)

中国北アジア課

2018年03月30日

雇用の流動性の高さがビジネス上のネックになる香港では、人を定着させる努力が必要不可欠である。香港で50年以上クリーニング事業を行う白洋舎の香港法人、恒隆白洋舎の横溝賢次董事兼総経理に、香港ならではの独自の取り組みについて聞いた。連載の5回目。

顧客の8割が香港人

Q.香港に進出したきっかけは。

A.香港に進出したのは1965年。香港のデベロッパー恒隆地産の陳會熙氏と当社2代目社長(当時)の五十嵐丈夫がクリスチャン同士であることから繋がりができた。陳氏から香港ではドライクリーニングの品質が悪く困っている状況があると聞き、恒隆地産との折半出資形態で現地法人を設立し、香港に進出した。当社としても、ちょうど海外展開を考えていた時期と重なっていたこともあった。

Q.香港での現状は。

A.現在、香港には31店舗、お客さま宅へ訪問集配するデリバリールートを15ルート設けている。以前は50店舗、18ルートまであったが、店舗賃料の高騰や人件費上昇などもありやむを得ず縮小した。香港では、高い家賃に加え雇用人員確保が難しく、採用した人がすぐに退職してしまうなど、香港のビジネス環境はサービス業には厳しいものとなっている。

今後は、家賃などの経費負担が少ないデリバリールートを増強していく計画である。また、やはり経費負担が少ないフランチャイズ展開を31店舗中、5店舗で展開している。

売上げの9割は一般の消費者であり、BtoBビジネスは全体の1割ほどである。BtoB分野では、航空会社や大手金融機関の制服などのクリーニングを手掛けている。

白洋舍は、香港のほかにもハワイにも海外展開しているが、海外事業の売上げは日本の大都市エリアの売上げと比較しても少ない。やはり、日本よりも四季の変化が小さく、衣替え時などの需要が少ないことが理由に挙げられる。

香港では、ランドリー業が主体であることに加え、香港のクリーニング市場はすでに成熟しており、これ以上の大きな需要はあまり期待できない。そのため、香港のクリーニング会社は総じて規模が小さく、従業員が50人以上働いている会社は10数社しかない。そのほとんどがホテルリネンを取り扱っているリネンサプライ業である。こうした状況下、当社では、他社との差別化に向けて2年前からスタートした高級クリーニングの展開を、より一層進めていきたいと考えている。

当社のお客さまは、8割が香港人、残りの2割が日本人と欧米人である。日本人は日本の白洋舍をご存知の方もおり、多くのご利用があるが、欧米人は、英国の高級クリーニング会社が香港でも展開しているため、欧米人のお客さまを獲得するのは難しい状況もある。

今後、家賃上昇は続いているが、立地条件が良ければ店舗も増やしていきたい。出店場所としては、中堅ショッピングモールやMTR鉄道駅構内の店舗などを検討している。

シンガポールや台湾への進出も考慮

Q.香港以外での展開は考えているのか。

A.クリーニング業の展開を考える際は、国全体ではなく、都市別に事業展開の可能性を探れば成功すると考えている。

中華人民共和国は事業リスクが高く、大都市でみてもサービス業は厳しい商売環境であるとの話をよく耳にするため、進出はあまり考えていない。

香港同様に富裕層が多く居住するシンガポールを調査した結果、高品質なクリーニングニーズに期待が持てるため進出を前向きに考えている。しかし、シンガポールは熱帯にあるので、一年中蒸し暑い気候のままで、衣替え時のクリーニング需要はあまり期待できないという課題はある。

他にも、富裕層が多い台湾・台北での展開も検討している。

シンガポールや台湾で成功すれば、他の国への進出も考える可能性がある。

従業員満足度を向上しつつ、コストカットに成功

Q.香港でビジネスを展開するうえで心掛けていることは。

A.クリーニング業は、お客さまからはクリーニングをしている現場は見えないので、作業自体を簡素化してコストカットをしようと思えばいくらでもできる面がある。しかし、当社では、お客さまから見えない仕事もしっかりと手間をかけ、上質な仕事をするよう心がけている。クリーニング品を集めるために、料金を下げて安上がりな仕事をするよりも、多少高い料金でも誠実に仕事をし、上質なサービスを提供する方がお客さまにご利用されると信じている。

家賃の高い香港では、店舗を構える場所が重要である。店舗を構える際、ローカルマネージャーは3年賃貸借契約の3年後を見据えての家賃交渉をしている。

香港では、デベロッパーの力が強く、またクリーニング店自体が低くみられているため、いい場所に店舗を構えることができず、更には契約期間中でも、強制的に退店させられることもある。また、退店されることはなくとも、3年後の契約更新時に、店内外装を変えるよう指示があるのが普通である。

また、人件費が高く失業率の低い香港では、新たな人材を採用するには、厳しい環境である。当社は現在、約150名の香港人を雇用しており、平均年齢は49歳。平均勤続年数は約20年と比較的長い。新たな雇用をするには売上げと利益の拡大による雇用条件の向上が必須である。

香港では、CS(顧客満足度)よりも、まずはES(従業員満足度)を日本以上に重視する必要がある。仕事中はもちろんのこと、仕事外の従業員の生活スタイルに気を遣うことが重要である。香港人は日本人以上にプライベートの時間を大切にする。そのため、会社休日に食事会などを催そうとしても「給料は出るのか」などと聞かれてしまう。ある意味では、香港はワークライフバランスが徹底されているところである。

働き方改革の一環として、閑散期の日曜日の工場稼働休止や、日々の工場生産目標が達成したら定時前に早帰りができる早期終業制度を導入したところ、残業時間が大幅に減り、光熱費などのコストカットにも成功した。他にも、社員の結束を高めるため、2~3カ月に1度、みんなで食事をとる機会を持ったり、家族も含め一堂に楽しんでもらうクリスマス会の開催といった試みも実施している。

また、3年前から、スタッフを日本の白洋舍に行かせて、クリーニング技術などを勉強させる制度も導入している。日本の技術を実際に見てもらうことで、世界に高品質な日本の良さを広める一助にもなっている。

(カン・カレン、楢橋広基)

(香港)

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