総合的なソリューション型ビジネスモデルやITの活用に商機-中東最大医療機器展示会「アラブヘルス」開催(2)-

(アラブ首長国連邦)

ヘルスケア産業課、ドバイ発

2018年03月30日

中東諸国の医療機器市場は年率10%前後で拡大し急速にインフラの整備が進んでいる。中東最大の医療機器展示会「アラブヘルス(Arab Health)」では、各国の医療機器メーカー等が医療需要に応えるよう、事業領域を広げ総合的なソリューション製品の提案やデジタル、IT技術を活用した製品に関心を示す。

急拡大する中東市場ではインフラの整備が急務

中東をはじめ新興市場では所得増、人口増、高齢化、生活習慣病拡大、公的保険整備の進展などが誘因となり、患者が長期にわたり右肩上がりに増えていく。これにより医療機器市場は年率10%前後で急速に拡大し、医療需要に応えるよう、中東各国では医療インフラの整備が急速に進む。

不動産に関する戦略的なソリューションとサービスを行っている、大手ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)社によると、現在の湾岸地域の人口1,000人当たり床数は1.9となっており、この割合を単純に維持するだけでも、湾岸地域の主要な都市(アブダビ、ドバイ、カイロ、ジェッダ、リヤド)だけで今後5年間に追加で1.5万床が必要になるという。また、経済協力開発機構(OECD)平均である人口1,000人当たり4.8床の水準を2022年に達成するには追加で47万床が必要になるという。

総合的なソリューション型ビジネスモデルが新たな可能性を見出す

インフラ整備が急務な中、病院が医療機器メーカーに求めるものは総合的なソリューション提案だ。病院の要望に応えるよう、各国メーカーが目指す新たなビジネスモデルは、事業領域を広げ、医療機関からの要望に応じ多様な技術や製品をパッケージで提供することである。生体情報モニターの製造から始まった中国大手のミンドレイ(mindray)、米国の医療用ベッド大手ヒルロム(Hill Rom)など、元々強みを特定領域で競争力を有していた企業が手術室に使用される照明など様々な器具を取り扱い、展示会では病室、手術室全体で提案を行うところが増えている。ドイツの滅菌装置大手ゲティンゲは2000年、同国の手術台製造大手マッケ(Maquet)を買収し手術室全体でのソリューション提供し、ビジネスを強化したが、その他のメーカーも追随し、今やこれが自然な流れとなっている。

病院からの大型受注を目指す企業にとって病院の要望に応じ、場合により他社や提携企業と組みながらソリューションの提供を試みる必要性は今後ますます高まってこよう。

写真 手術室全体を展示するヒルロムのブース(ジェトロ撮影)

デジタル、ITの活用にも商機

生活習慣病患者の増加などから医療患者が増える一方(注)、インフラ整備がこれに追いつかない中、個人の血圧や、睡眠の質などを測るデジタル健康管理機器は患者、医療従事者双方が効率良く健康状況を管理できる有効なツールになり得る。患者はモバイル端末を通して日々の健康管理を主体的に行うことにより、病院に行かなくても健康の維持・改善や悪化する前の予防的対処などができる。また、必要に応じて医療従業者とデータを共有し、オンラインでアドバイスを受けることが可能となる。患者が病院に行く必要性は減り、同時に医療従事者は真に治療を必要とする患者のケアに集中ができ、医療の効率化や病院での混雑の緩和にも繋がる。

中東では既に個人の健康管理技術への注目が高まっている。2015~20年のUAEのウェアラブルセンサー市場は年率41.86%と驚異的な伸びで市場が立ち上がっているところだ。またアラブヘルス2018主催者が組織した調査委員会による湾岸協力会議(GCC)諸国の各国民向けアンケート調査によると、45%が生体情報を記録するスマートウォッチなどのウェアラブル技術が個人の健康管理に効果的と考えているようだ。

今回のアラブヘルスでも初めて「パーソナル・ヘルスケア・テクノロジー・ゾーン」が設けられ、ITやデジタル技術を活用した医療に注目が集まった。同ゾーンでは、患者データ分析用のソフトウェア、携帯のアプリと繋がる心電図や超音波スキャナー、子宮頸の検査機器等のワイヤレスデバイス、健康関連データを記録するスマートウォッチ、遠隔治療のソリューション等が紹介された。

中東の政府関係者も医療におけるITやデジタル技術活用に注目する。UAE保健・予防省が、現地のヘルスケアIT大手ピュア・ヘルス社と連携し、UAE長期開発計画「ビジョン2021」の一環として国家統一診療録プログラム「Riyati」を整えることを決定し、アラブヘルスで同プログラムのPRを行っていた。また、ドバイ保健局(DHA:Dubai Health Authority)のブースでは、同局が開発した妊娠女性に向けて出生5年間の子供の健康状況に関する情報を提供するアプリ(「Tifli」)や、糖尿病患者向けに血糖値や血圧、体重、睡眠などに関する自己管理技術を伝えるアプリ(「Hayati」)が展示されていた。両方のアプリのデータを、ともに医療関係者とシェアできるようになっている。その他に、DHA傘下の病院や薬局をオンラインで予約できるアプリ(「Sehhaty」)やドナー登録用のアプリ(「Dammi」)を紹介していた。

(注)中東は世界最高水準の肥満率にあり、生活習慣病患者の増大が深刻化している。たとえば、国際糖尿病連合(IDF)の調査によると、湾岸地域の糖尿病患者は2017年の約3,870万から45年には2倍以上に増加する見込みである。糖尿病の誘因として注目される肥満に関しては、肥満の目安とされるBMI(Body Mass Index)30以上に該当する18歳以上の人口の割合は、クウェート、ヨルダン、サウジアラビア、カタール、リビア、レバノン、エジプト、UAE、イラクでは30%を超える。

(宮崎アナスタシア、安藤雅巳)

(アラブ首長国連邦)

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