通商交渉を通じたデジタル貿易ルール策定目指すEU

(EU)

ブリュッセル発

2019年05月31日

欧州委員会は、デジタル貿易分野において、デジタル技術がもたらす好機とともに、消費者・個人データ保護の必要性、データ・ローカリゼーション(サーバー設備などの国内設置の義務付け)などの障壁に着目し、自由貿易協定(FTA)や多国間の協議を通じた電子商取引(EC)や越境データフローのルール形成と「デジタル保護主義」対策を目指してきた。EUが通商・投資協定を交渉する際に盛り込むべき、データフローと個人データ保護に関する共通条文案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を、欧州委が2018年1月に採択したことも、そうした取り組みの一環といえる。

USMCAやCPTPPとの競合も

欧州委が提案する共通条文案は、(1)データフロー条項(主にデータ・ローカリゼーションの禁止)、(2)個人データ保護(越境移転に関するルールを含む、締約国による個人データ保護に必要な措置の維持・導入が通商・投資協定により妨げられないこと)、(3)デジタル貿易関連のルールに関する締約国間の協力、の3つの柱からなる。EUは、オーストラリアやニュージーランドなどと現在進行中の自由貿易交渉においても、この条文案を含むテキスト案を提案している。

他方、2018年4月に大枠合意に達したEUとメキシコのFTA〔再交渉(更新)〕のデジタル貿易章は、EUの共通条文案にはない「電子送信への関税不賦課」や「電子的な信頼・認証サービス」(電子署名など)、「迷惑な商業電子メッセージ」(スパム)などの条文を含んでおり、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)との共通点がみられる(注)。

オーストラリアとニュージーランドが参加する、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)では、企業による事業実施を目的としたデータの越境移動を認めている。EUの産業界では、USMCAのデジタル貿易章(19章)とCPTPPの電子商取引章(14章)を、デジタル貿易に関するルールのベンチマークとみる向きもある。

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は、欧州委の共通条文案について、個人データ保護条項による越境データフロー条項の弱体化を危惧し、適切な執行メカニズムを求める声明を出している。EUによる域外国との自由貿易交渉を通じた、デジタル貿易分野におけるルール形成については、オーストラリアやニュージーランドとの交渉の動向も見守る必要がありそうだ。

(注)公開済みの2018年4月21日版テキストに基づく。なお、EUメキシコFTAの再交渉(更新)については、2019年5月現在で未署名(欧州委によれば、2018年末に大枠合意後の技術的課題について交渉官レベルで解決済み)。

(村岡有)

(EU)

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