プライバシー保護とデータ流通目指す

(インド)

ニューデリー発

2019年06月04日

インドでは、データローカライズ規定を含む個人情報保護法の素案が2018年夏に発表され、モディ第2次政権発足後に国会で審議が行われる見込みだ。本件のデータ保護主義的な側面に焦点が当たりやすい一方で、IT先進国のインドらしく、プライバシー保護とデータ流通を両立するための先進的なインターフェース・ソフト開発が始まっていることも注目に値する。

インド政府は2009年以降、デジタル技術を用いた国民識別番号制度「Aadhaar(アダール/アドハー)」の整備や、これに基づく個人認証、本人確認、送金などの機能に関する統合デジタル・インフラ「インディア・スタック」を整備してきた。このシステムは2009年から本格導入が順次始まっているが、最近特に普及が加速している。これまで、貧困層の約8割が銀行口座を持たず、年間数兆円規模の生活保護の約半分が不正受給されていたが、同システム導入後には、デジタル本人認証による銀行口座の開設と、生活保護の個人銀行口座への直接給付が実現した。今やインド国民13億人のほぼ全世帯が銀行口座を保有するに至り、前例のない規模で社会保障の効率化と貧困層の金融包摂を実現した。加えて、インディア・スタックは、民間決済業者やスタートアップにアクセスと使用が開放されているため、これを活用するかたちで「ペイティーエム」や「グーグルペイ」などのキャッシュレス・サービスや、BtoCビジネスが急速に発展している。

この例に見られるように、貧困層を含む13億人に対して包括的成長とデジタル革命を引き起こした実績から、インディア・スタックには世界的な関心が集まっている。インド電子IT省によると、G20のデジタル関連会合でインド政府がインディア・スタックの取り組みを紹介し、デジタル社会におけるガバナンス・イノベーションの好事例として各国から受け止められたもうようだ。

インド個人情報保護法案の導入に合わせて、インディア・スタックに、個人情報の同意と流通を管理する機能が付加されようとしている。このソフトは「DEPA(Data Empowerment and Protection Architecture)」と呼ばれ、これを使うことで各個人や事業者は自らのデータ共有先の企業リストを管理することが可能となる。インドでは、事業者が持つ顧客の売掛金や納税実績などのデジタルデータを活用し信用度合いを測ることで、貧困層(個人)や中小企業(事業者)によるローン・アクセスの改善を実現するサービスが始まっている。データの第三者利用が進むのに伴い、個人・企業がその流通範囲を管理する必要が生じており、DEPAが整備されれば、これに対応できるデジタル・インフラが整う。データは「新たな石油」と呼ばれ、囲い込みの対象と見られることもある。しかし、石油は1度しか消費できないのに対して、データは流通させれば何倍もの価値を生み出す。インドは信頼できるデータ流通の仕組みの構築について、技術で解決を図るフロントランナーとなっている。

(小野澤恵一)

(インド)

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