マクロン大統領がジョンソン首相と初会談、離脱再交渉に応じない構え示す

(フランス、英国)

パリ発

2019年08月28日

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は8月22日、パリで英国のボリス・ジョンソン首相と初めて会談し、英国のEU離脱(ブレグジット)、英離脱後の2国間協力体制の強化のほか、フランス南西部ビアリッツでの主要7カ国(G7)首脳会議(8月24~26日)の議題などについて協議した。

ジョンソン首相は、EUがテリーザ・メイ前政権と合意に達した「EU離脱協定案」に含まれるバックストップ条項(注)(2018年11月15日記事参照)を離脱協定案から除外することを主張し、EUに再交渉を求めている(2019年7月24日記事参照)。

協議に先立って8月22日に設けられた共同記者会見の席で、マクロン大統領は「離脱協定案のバックストップ条項といったカギを握る項目は、アイルランドの安定維持と、欧州プロジェクトの基盤となるEU単一市場の統合性を保障する上で必要不可欠なものだ」と述べ、再交渉には応じない構えを示した。また、10月31日での合意なき離脱(ノー・ディール)に向け、「われわれは既に準備できている」と述べた。

これに対し、ジョンソン首相は英国民投票の結果を尊重し「合意の有無にかかわらず、10月31日にEUから離脱すべきだ」と主張する一方で、「(EUと)何らかの合意に達することができると思う」との楽観的な姿勢を示した。

ジョンソン首相は8月21日に、ドイツのベルリンでアンゲラ・メルケル首相と会談した。この中で、メルケル首相が向こう30日以内にバックストップの代替案策定を求めた点に触れ、「私は彼女の考えを大変肯定的に受け取った」「英国は(英領北アイルランドとアイルランドの間で)国境審査を課すことを望んでいない。(EUが市場の統合性を守ることができる)手段がほかにもあると思う。既に複数の代替案が提案されている(2019年6月28日記事参照)」とした。

一方、マクロン大統領はメルケル首相の発言について、「向こう30日間で、(アイルランドの安定と欧州単一市場の統合性という)基本から乖離した新たな離脱協定案を見いだすことはできない」と明言。この問題はもっと深いものであって、英国の政治問題であり、EUとの再交渉が問題を解決するのではないとし、ジョンソン首相の政治的選択にかかっていると牽制した。

なお、2018年の統計によると、英国はフランスにとって、輸出が6位(構成比6.8%)、輸入が8位(3.7%)の貿易相手国。自動車・部品、真珠・宝石類、飲料・アルコールなどが軸で、フランスは英国に対して貿易黒字を計上している。2019年上半期(1~6月)も輸出が前年同期比8.9%増、輸入が3.1%増となり、EU27カ国向け輸出(2.8%増)や輸入(0.7%増)に比べて大きく伸びた。フランス国立統計経済研究所(INSEE)は2019年3月、合意なき離脱に至った場合、フランスのGDPは0.6%縮小する恐れがあると試算。ただし、アイルランド(4.1%減)やドイツ(0.9%減)に比べると、小幅にとどまると予測した。

(注)アイルランドと英領北アイルランドとの国境問題の解決策。移行期間の終了までにEUと英国が、アイルランドと英領北アイルランドとの国境管理について検問所や税関審査などを置く「ハード・ボーダー(物理的な国境)」を回避するための明確な解決策が見つからない場合、移行期間が終わった後も英国はEUの関税同盟内にとどまるというもの。

(山崎あき)

(フランス、英国)

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