欧州運輸産業、次期欧州委にインフラ投資活性化を要請

(EU)

ブリュッセル発

2019年10月01日

欧州船主協会(ECSA)は9月30日、汎欧州運輸ネットワーク(TEN-T)計画の中核ネットワーク回廊を2030年までに完成させるために、EUの社会基盤整備支援政策パッケージ「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティー(CEF)」などのEU予算拡充を求める声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。ECSAなど欧州インフラ産業関連団体は、次期欧州委員会が重視する「気候変動対策」「デジタル化」などを推進するために、EUとしての効果的財政支援が必要としている。

欧州運輸産業界は資金不足による投資遅滞を警戒

ECSAを含む欧州インフラ産業関連の約40団体(運輸・交通関連主体)は共同キャンペーンとして9月27日付で冊子PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を作成、欧州議会と欧州理事会に、欧州の運輸・交通部門での投資加速を求めている。今回の声明によると、TEN-T計画の中核ネットワーク回廊を2030年までに完成させるためにはさらに7,500億ユーロの投資が必要だという。しかし、このような社会的利益の高い輸送計画からは十分な投資収益率を得られないため、EUによる財政支援が重要と指摘。投資を得られれば、TEN-T計画の中核ネットワーク回廊の完成に向けて2030年までに1,000万人の追加雇用を創出でき、4兆5,510億ユーロ相当のGDP押し上げ効果があると期待している。

今回の共同声明にも参画した欧州港湾協会(ESPO)の調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、欧州の港湾部門だけでも2018~2027年までの間に英国を除いたEU27カ国で約480億ユーロの投資資金が必要だという。他方、2014~2017年の4年間でEU加盟国の港湾当局がEU予算から得た資金は8億6,000万ユーロで、要求額の35%程度にすぎなかったとして、港湾部門だけを見ても状況の改善が必要、というのがESPOの見方だ。

ECSAも2021~2027年・中期予算枠組み(MFF)のうちのCEF予算で、EUとしての予算増強を欧州運輸・交通産業界として求めたいとしている。国際海事機関(IMO)の「温室効果ガス(GHG)削減戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」に対応するため、欧州の造船産業は今世紀中にGHG排出ゼロを確立する姿勢だが、こうした目標実現には研究開発投資による技術革新が必要となる。しかし、現時点では、このための資金的裏付けがない状況で、この解消のためにも、EUの果たす役割は大きいと、欧州の運輸・交通部門には期待感が強い。

なお、欧州のTEN-T計画に関わる投資資金の需給ギャップの問題については、欧州会計検査院(ECA)も問題視する見解(2018年12月7日記事参照)を明らかにしている。

(前田篤穂)

(EU)

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