米トランプ政権、タイからの輸入に関して特恵関税を一部停止

(米国、タイ)

ニューヨーク発

2020年11月05日

米国トランプ政権は10月30日、タイからの輸入の一部について、一般特恵関税制度(GSP)の適用を停止すると明らかにした。正式には11月4日に官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公表された。タイの豚肉製品の市場アクセスをめぐる協議の進展が不十分なことが理由で、政権は他の対象国・品目についても変更を発表している。

今回GSPが適用停止となるタイ産品は、計231品目(HSコード8桁ベース、注1)が該当する。米国通商代表部(USTR)によれば、同品目のタイの対米輸出実績(2019年)は8億1,700万ドルに上り、タイのGSP利用額全体の6分の1に相当する。GSPは、開発途上国の経済発展を目的に、対象国からの対米輸入にかかる関税を一部免除する制度(注2)だが、今回GSPが停止となる品目は12月30日以降、最恵国(MFN)税率が適用されることとなる。トランプ政権は2019年10月にも、タイからの輸入額約13億ドル相当の品目をGSPから除外している(2019年10月30日記事参照)。

品目別では、電子機器(85類)、機械類(84類)、輸送機器(87類)が多い。個別品目では、乗用車向け駆動軸の部品(HS8708.50.89)、輸送機器(トラクターを除く)向けハンドル部品(HS8708.94.75)、アルミ合金製の板・シート・ストリップ(厚さ0.2ミリメートル以上で長方形のもの)(HS7606.12.30)の貿易額が大きい。USTRは、対象品目について、タイの対米輸出にとって重要な一方、米国の輸入全体におけるタイのシェアが少ない品目を選んだ、と説明している。

USTRは今回のGSP停止措置について、タイが米国に対して豚肉製品の公平な市場アクセスを提供しておらず、全米豚肉生産者協議会(NPPC)の要請に基づくもの、と報告している。2020年版外国貿易障壁報告書(NTE)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、タイは成長ホルモン剤のラクトパミンを使用した豚肉の輸入を禁止している。米国側は許容残留量を定めることで輸入を認めるよう求めており、2020年1月にはタイ政府やNPPCを招聘(しょうへい)して公聴会を開催した。米国は1974年通商法に基づき、相手国が米国に公平かつ合理的な市場アクセスを付与していることや労働者・知的財産保護などを、GSP対象国に指定する際の考慮要素としている。

また今回の発表では、ジョージアとウズベキスタンが労働環境の改善、インドネシアが市場アクセス(デジタル貿易や保険、農業など)の改善を理由に、GSP適用停止に向けた見直しが中止された。ラオスのGSP適用は認められず、ジンバブエとエリトリアがGSP停止の検討国に加わったほか、一部品目の追加・除外などが発表された。ロバート・ライトハイザーUSTR代表は「本日の発表は、(他国の)労働基準を改善し、米国の事業者や労働者の成功を助長する目的で、GSP制度が有効活用されていることを示すもの」との声明を出している。

GSPは2020年末に失効予定となっており、チャック・グラスリー上院財政委員長(共和党、アイオワ州)が2022年4月まで期限延長するための法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを提出しているが、ライトハイザーUSTR代表が現状のGSP制度に不満を表明するなど、更新の見通しは立っていない。

(注1)対象品目や変更内容の一覧については、官報PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の別紙1(Annex Ⅰ)またはUSTRウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。

(注2)GSP対象国・地域は、米国際貿易委員会(ITC)の米国関税率表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの注釈4(General Note 4)に記載がある。4(a)ではGSP対象国・地域、4(b)では後発開発途上国、4(d)ではGSP対象外となる品目と原産国・地域のリストを掲載している。GSP税率は、「特別税率(Rate of Duty:Special)」欄の特別プログラム表示(SPI)が「A」「A+」「A*」の3種類で表示されているものに該当。

  • 「A」:全GSP対象国・地域
  • 「A+」:後発開発途上国からの輸入製品が対象
  • 「A*」:GSP対象国・地域のうち、4(d)に掲載されている品目と原産国・地域を特恵の対象外としている

(藪恭兵)

(米国、タイ)

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