欧州委、2030年デジタル化目標や大規模デジタルインフラ投資の支援枠組みを発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年09月17日

欧州委員会は9月15日、2030年までの欧州のデジタル化移行の実現を目指す「デジタル化の10年間(Digital Decade)」において、EU全体での目標を定めた「デジタル・コンパス2030」(2021年3月12日記事参照)の達成に向けた具体的なガバナンス枠組みとなる「デジタル化の10年間に向けた方針」に関する決定案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。今回の決定案は、「デジタル・コンパス2030」で示されたデジタルスキルの育成、デジタルインフラの整備、ビジネスのデジタル化、公的サービスのデジタル化の各分野における数値目標を法制化するとともに、欧州委と各加盟国の協力メカニズムを規定する。こうした数値目標には、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が同日に行った一般教書演説(2021年9月16日記事参照)で強調した、半導体のEU域内供給の強化に関するものも含まれている。これによると、2030年までに持続可能な次世代半導体の域内生産の世界シェアを少なくとも20%に引き上げるとしている。

欧州委は今後、各数値目標の実現に向けたEU全体での計画や重要業績評価指標(KPI)を設定した上で、各加盟国のデジタル化政策の進捗状況を監督することになる。欧州委は、デジタル化の進捗状況をまとめた報告書を毎年作成し、デジタル化移行に遅れがみられる加盟国に対しては、実施すべき政策や措置などを提案する。加盟国は、こうした欧州委の勧告を考慮した上で、実施済み、採択済み、あるいは計画中の政策や措置、数値目標の達成に向けた国別の計画などを含む、戦略的ロードマップを欧州委に提出する。欧州委と加盟国は、こうした協力メカニズムを通して、EUレベルでの数値目標の達成を目指すことになる。

複数の加盟国による大規模デジタルインフラ投資も支援

また、同決定案は、3カ国以上の加盟国が共同して実施する「複数国プロジェクト(Multi-Country Project)」の設置および実施における枠組みも規定している。複数国プロジェクトとは、1カ国だけでは実施が難しいデジタルインフラやサービスに関する大規模事業に対して、欧州委が調整役となり、複数の加盟国と欧州委や欧州開発銀行グループなどが共同出資し、実施する事業だ。民間からの出資も、場合によっては認められるとしている。欧州委は対象となる分野について、今回の案の付属書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、データインフラ、低消費電力プロセッサ、5G(第5世代移動通信システム)情報通信、高性能コンピューティング、量子情報通信、行政機関、ブロックチェーン、デジタル・イノベーション・ハブ、デジタルスキル投資などを提示している。なお、複数国プロジェクトは、民間の自助努力だけでは技術革新が難しい分野におけるEUの国家補助ルールの緩和策によって、複数の加盟国による共同支援を可能とする「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」とは別の枠組みで、通常の国家補助ルールが適用される。

同決定案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される予定だ。

(吉沼啓介)

(EU)

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