国民投票で看護師の待遇改善イニシアチブとCOVID-19法改正を可決

(スイス)

ジュネーブ発

2021年12月06日

スイスで国民投票が11月28日に実施された。「看護師の待遇改善」と「連邦最高裁裁判官の選出方式」に関する2つのイニシアチブ(国民発議、注1)と、新型コロナウイルスに関する「Covid-19法の2021年3月改正」についてのレファレンダム(注2)の投票が行われた。それぞれ、賛成60.98%で可決(投票率65.3%)、68.07%で否決(投票率64.67%)、62.01%で可決された(投票率65.72%)。

1つ目のイニシアチブは、看護師の育成システムの強化、労働条件や報酬の改善、看護師が特定の医療サービスに対して診療報酬を直接請求できるようにすることを求めていた。

連邦参事会(内閣)と議会は、イニシアチブの内容は行き過ぎだとして間接対案を承認していた。その内容は、看護師の研修のために今後8年間で最大10億スイス・フラン(約1,230億円、CHF、1CHF=約123円)の資金を用意することと、看護師が特定の医療サービスに関して診療報酬を直接請求することを可能とするものの、その結果として医療費が高騰し過ぎないようにコントロールする仕組みを設けることなどだった。連邦参事会や大多数の政党は対案を発効させるために反対票を投じるよう国民に呼びかけていた。アラン・ベルセ内務相は開票後の記者会見で、イニシアチブの方向性は正しいものではあったが行き過ぎており、今後、可決された内容を実施することによって、医療費高騰と州政府の財政への影響が生じる可能性があると述べた。

2つ目の「連邦最高裁裁判官の選出方式」に関するイニシアチブは、政治や出身地域、言語などのバランスを考慮した上で議会が連邦裁判官を選出する現行の方式を改正し、司法の専門家委員会が選んだ候補者の中から抽選で選出することを求めていたが、否決された。

今回最も注目されたのは、3つ目の「Covid-19法の2021年3月改正」に関するレファレンダムだった。Covid-19法は2020年9月に可決されたが、2021年3月の改正時に経済支援策の拡充に加えて、感染ルートを追跡する接触追跡システム、COVID証明書(注3)などが導入された。レファレンダムを提起した委員会は、接触追跡システムは監視社会を助長させる危険があること、COVID証明書の導入により、ワクチン未接種者が社会的に阻害されているなどと主張していた。連邦参事会と議会の大多数は経済支援策の必要性、COVID証明書の導入によって、経済活動や渡航を一律に禁止するのではなく、リスクをコントロールしながらの再開が可能となることを訴え、賛成票を投じるよう国民に呼びかけていた。スイス最大の経済団体エコノミースイスやUSAM(スイス商工業連盟)も賛成していた。アラン・ベルセ内務相は開票後の記者会見で、今回の議題に対する投票前のキャンペーンが過熱したことの問題を指摘しながらも、最終的に可決されたことに満足していると述べた。

(注1)有権者10万人以上の署名を要件として、国民が憲法改正の提案を行うもの。

(注2)議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。

(注3)「COVID証明書」は、ワクチン接種証明書、回復証明書、陰性証明書を指す(2021年6月15日記事参照)。

(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)

(スイス)

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