欧州委、EU独自の衛星通信網の構築に向けた規則案発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年02月17日

欧州委員会は2月15日、EU独自の衛星通信網の構築計画を策定する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。欧州委は、衛星通信サービスに対する需要が急増し、米国や中国、ロシアなどでは政府主導による多数の衛星からなる大規模通信システムの整備が進んでいる一方で、EUや加盟国ではこうしたシステムの整備が不十分で、特に重要性が増している低軌道・中軌道の衛星に関しては、運用可能あるいは運用予定のものが全くないという現状を指摘。危機対応、国境や領海の監視、重要なインフラとの接続と防衛など安全保障の観点から、EUや加盟国の政府機関向けの安全かつアクセスが保障された通信網の確保が重要であり、域外国の衛星通信網への依存を避けるためにも、EU独自の衛星通信網の構築が必要だとしている。サイバーセキュリティーなどの脅威に備えて、次世代の暗号技術の量子暗号技術の実装も重視している。また、民間にも衛星通信網の利用を開放することで、2030年までのデジタル化目標(2021年3月12日記事参照)の1つである域内全域での高速ブロードバンドの提供も可能になるとしている。

2028年の全サービス提供に向け、官民合計で60億ユーロの投資見込む

欧州委は、EU独自の衛星通信網の構築計画に必要な予算を約60億ユーロと試算。EU予算からは2027年までに24億ユーロを拠出する。このほか、加盟国からの拠出に加えて、民間の投資も呼び込みたい考えで、EUと加盟国の利益を守ることを条件に、競争入札によるコンセッション契約を民間企業と締結するなど、官民連携による事業実施も予定している。この規則案は、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で採択されれば、2023年から事業を開始し、2025年までに通信サービスの一部提供を開始するとともに、量子暗号技術の軌道上試験を実施、2028年までに量子暗号技術を含む全ての通信サービスの提供を目指すとしている。

なお、欧州委は同日、今後さらなる衛星の打ち上げにより、宇宙空間の過密化や宇宙ゴミ(スペースデブリ)の増加が見込まれることから、宇宙空間の管理やそのためのルール整備などに向けた政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも発表した。

(吉沼啓介)

(EU)

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