欧州委、EUタクソノミーに天然ガスと原子力を含める委任規則案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年02月04日

欧州委員会は2月2日、持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」規則において、持続可能な経済活動として許容される技術的基準を規定する委任規則(2021年4月22日記事参照)に、一定の条件で天然ガスおよび原子力による発電などの経済活動を含める補完的な委任規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。

委任規則自体は1月1日から適用を開始しているが、天然ガスと原子力の扱いについては、関係者や加盟国の間で意見が大きく分かれていたことから、判断が先送りされていた。欧州委は2021年12月31日に、委任規則案の原案を諮問機関に配布していたが(2022年1月4日記事参照)、諮問機関は天然ガスと原子力を用いた発電を持続的な経済活動に含めるとする原案に対して否定的な見解を示していたことから(2022年1月25日記事参照)、欧州委の最終的な判断に注目が集まっていた。

今回の委任規則案付属書IPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、天然ガスおよび原子力は、以下の技術的基準で「移行期の活動」に分類されている。

【天然ガス発電施設の建設や稼働など〔(1)あるいは(2)の基準を満たすこと〕】

(1)ライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)排出量が二酸化炭素(C02)換算量で100グラム/キロワット時(g/kWh)以下。

(2)2030年12月31日までに建設認可を受けた施設に関しては、(a)GHG直接排出量がC02換算量で270g/kWh以下、あるいは20年間にわたる施設の年間GHG直接排出量がC02換算量で平均550kg/kWh以下であること、(b)石炭などを使用するGHG排出量の多い既存の施設を代替すること、(c)2035年12月31日までに再生可能あるいは低炭素ガスの使用に完全に切り替えること、(d)施設の代替によりGHG排出量を55%以上削減すること、などの要件を全て満たす場合。

なお、原案にあった、再生可能あるいは低炭素ガスの配合割合に関する2026年と2030年の中間目標は、ドイツなどの一部加盟国を配慮し、削除されている。

【原子力発電施設の新規建設と稼働、既存施設の修繕】

2045年までに建設認可を受けている、あるいは2040年までに運転期間延長のための修繕の認可を受けていることを前提に、(a)極低・低・中レベル放射性廃棄物の最終処分施設が稼働していること、(b)2050年までに高レベル放射性廃棄物の処分施設に関する詳細な計画があること、などの全ての要件を満たす場合。

さらに、新規建設の場合は利用可能な最良の技術を、既存施設の修繕の場合は合理的な範囲で安全性向上策をそれぞれ実装すること、2025年からは事故耐性燃料を利用すること、などの条件も課されている。

なお、諮問機関の否定的な見解に対しては、欧州委は、気候変動の緩和に実質的に最も貢献し、かつ有害な影響がない、もしくはほとんどない活動のみがタクソノミー規則に合致するという誤った前提に基づいている、と反論。それ以外の活動であっても、技術的にあるいは経済的に代替可能な低炭素技術がない場合には、GHG排出量が現状において最も少ない技術を用いて、低炭素技術への移行を妨げず、GHG排出量の多い施設への依存を招かないことを条件に、「移行期の活動」としてはタクソノミー規則に合致する、と主張している。

今後、この委任規則案は、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で最長6カ月間の審査を受けることになり、両機関が否決しない限り、2023年1月1日から適用が開始されることになる。既に一部の加盟国や欧州議会議員は反対を表明しているが、EU理事会が否決するためには最低でも20加盟国以上の、あるいは、欧州議会が否決するためには過半数の議員の反対が必要なことから、否決に向けたハードルは高いとみられている。また、オーストリアは、今回の委任規則案はタクソノミー規則に合致していないとして、EU司法裁判所に司法審査を求める方針を明らかにするなど、今後もしばらく対立が続きそうだ。

(吉沼啓介)

(EU)

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