大気から水をつくるイスラエルのウォータージェン、シリアで飲料水を供給

(イスラエル、シリア)

テルアビブ発

2022年05月17日

イスラエル現地紙「エルサレム・ポスト」は5月10日付で、大気から水をつくる装置を開発するイスラエル企業「ウォータージェン(Watergen)」が、シリアで飲料水の供給を行うと報じた。シリア国内で活動する人道支援組織「マルチフェイス・アライアンス・フォー・シリアンレフュジーズ(Multifaith Alliance for Syrian Refugees)」と協働し、学校や病院、その他の医療施設などに、同社が開発した飲料水製造装置を設置するという。

2021年10月1日付の赤十字国際委員会(ICRC)の報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、シリアでは、2010年以前には都市部の人口の98%、農村部でも92%の人々が安全な飲料水へアクセスできていたが、内戦が勃発した同年以降の11年間で、水と衛生設備が正常に機能している場所が全土で50%にまで低下した。内戦による物理的な上水インフラの破壊に加え、インフラを保守運用する技術者やエンジニアの流出が拍車をかけたかたちとなった。

ウォータージェンの飲料水製造装置は、最も小型の機種で1日当たり18~20リットルの飲料水を製造することが可能で、最大の機種は1日当たり6,000リットルの製造能力を有する。

シリアで製造装置を運用する際に必要となる電源は、ソーラーパネルなどを活用しており、上水道インフラと同様に、ダメージを受けた電力インフラ(注)に頼らなくても運用できる仕組みだ。長大な配管設備と取水場、浄水場などを要する上水道インフラや、大規模な発送電網を必要とする電力インフラに依存することなく、オフグリッドで飲料水を供給することが可能となっている。

ウォータージェンは2021年に、テルアビブ大学のモシェ・ミリラシビリ応用水研究所と、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国に本拠を置くベイヌナー(農業コングロマリットのアル・ダフラグループの子会社)との間で、アブダビに水研究所を開設する協定に署名(2021年6月18日記事参照)するなど、中東域内において積極的に活動するほか、世界65カ国以上に同社の装置を展開している。シリアのように紛争などによってインフラが棄損されてしまった国や地域はもとより、既存のインフラそのものが未整備である開発途上国や、先進国にも災害時のバックアップ用途などとして、さらなる普及が期待される。

(注)欧州大学院大学(European University Institute)の報告外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、内戦によって主要な発電所や送電網が破壊されたものの、小康状態に入った2017年後半以降には、政府側・反政府側の双方が電力インフラの部分的な復旧に着手し、一部回復しているという。

(吉田暢)

(イスラエル、シリア)

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