カナダ・ケベック州でフランス語使用強化法を可決、連邦法相は法廷闘争の可能性示唆

(カナダ)

トロント発

2022年06月02日

カナダ・ケベック州議会は5月24日、同州でのフランス語の使用強化法案「ケベックの公用語・共通語のフランス語を尊重する法律」を採択したと発表した。裁判所や公共サービスでの英語使用を制限し、中小企業や自治体に対して、より厳しい言語要件を課すとともに、教育分野で英語による大学基礎教養機関(CEGEP)の学生数に上限を設ける一方、CEGEPでのフランス語による受講義務付け科目数を増やす。

言語強化策の中でも企業運営に直接影響するとみられるのは2点だ。1点目は、フランス語を職場の共通言語とする規定の適用対象が、従来の従業員50人以上の企業から、25人以上の企業へ拡大されること、2点目は、同規定の順守を検査する担当官に、令状なしで捜索・押収を行う権限が与えられることだ。

これまでもケベック州のフランス語憲章の下、検査官には書類の閲覧を求めるなどの調査権限が与えられていたが、その権限はカナダ国民を不当な捜査や押収から保護するカナダ人権憲章によって常に制限されてきた。しかし、新法制定による権限では、カナダ人権憲章が保障する基本的な自由を無効にした上で、令状なしの捜索・押収が可能になるという。

モントリオール都市圏商工会議所のミシェル・ルブラン会頭は同日、「経済界はこの法律の趣旨を支持しているが、中小企業や一部企業の本社機能への影響を懸念している」とツイッターでコメントした。

ケベック州議会の発表を受けて、デイビッド・ラメッティ連邦法相兼司法長官(同州モントリオール地区選出連邦議会議員)は翌25日、「ケベック州におけるマイノリティー(フランス語を使用しない州民)の憲法上の権利に触れるような動きには、当然ながら懸念している」とコメントし、カナダ人の憲法上の権利を守るために必要と思われる場合には、法廷闘争に加わる可能性も排除しないことを明らかにした。

なお、新法のほとんどの措置は、州議会での法案採択を受けて、副総督の裁可を得ると同時に施行される。ただし、スムーズな移行を促すため、措置に応じて3カ月、もしくは1年や3年の移行期間を設けており、前述の言語規定の25人への対象拡大についての移行期間は3年となっている。

(飯田洋子)

(カナダ)

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