スペインの送ガス事業者エナガス、2030年までのインフラ投資計画発表

(スペイン、イタリア、フランス、ポルトガル)

マドリード発

2022年07月25日

スペインの天然ガス網管理会社エナガスは712日、2030年までのインフラ投資方針を示した「戦略計画」を発表した。この計画は、現在スペイン唯一の送ガス事業者の同社が水素ネットワーク運用事業者へ移行すべく、既設の天然ガスパイプラインの水素対応化や水素パイプライン、地下貯蔵拠点の新設、さらには、グリーン水素やバイオメタン製造事業などに総額277,500万ユーロを投資するもの。

また、ウクライナ情勢を受けたEUのロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」に呼応し、同計画で必要性を特定したスペイン~イタリア間を接続する海底天然ガスパイプラインや、フランス、ポルトガルとのパイプライン増設を含む20億ユーロ規模の欧州向けガスパイプライン投資計画を明らかにした。欧州向けガスパイプラインは、将来的には水素パイプラインとして運用する予定。イタリアとの海底パイプラインは2028年の稼働開始を予定し、米国などの代替調達源からスペインに輸入される液化天然ガス(LNG)を再びガス化し、ロシア産ガスに依存するイタリアや中欧向けに直送できるインフラ構想として数カ月前から浮上している。3月末にはイタリアのマリオ・ドラギ首相がスペインのペドロ・サンチェス首相と同構想について検討したことを明らかにしていた。

米国産などのLNGのパイプライン経由輸出が増加傾向

スペインには7カ所のLNGターミナルがあり、EU全体の再ガス化能力の37%を占めている。これまでは過剰インフラともいえる状態だったが、将来的に輸出用パイプラインさえ整備されれば、国内消費の余剰分を再ガス化して欧州向けに輸送することが可能となる。

従来の天然ガス主要調達先のアルジェリアからの輸入が減少傾向にあることから、202216月の輸入全体に占めるLNGの割合は73.2%と、前年同期比で23ポイントの急増。このような調達構造の変化が鮮明となった上、隣国フランスへの輸出急増や、アルジェリアとの断交により天然ガス供給を停止されたモロッコへの輸送開始により、スペインの再ガス化設備の稼動率も急激に上昇している。

712日付のヨーロッパ・プレスによると、エナガスのアルトゥーロ・ゴンサロ最高経営責任者(CEO)は戦略計画の発表の場で「EUが検討するイタリアなどとのガスパイプライン接続はロシア依存からの脱却のために欧州が必要とするインフラであり、商業的にも意義のあるプロジェクトで、十分に実現可能だ」と説明した。

(伊藤裕規子)

(スペイン、イタリア、フランス、ポルトガル)

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