国家エネルギー政策を発表、2040年までの低炭素化目標盛り込む

(マレーシア)

クアラルンプール発

2022年09月27日

マレーシア政府は9月19日、「国家エネルギー政策2022-2040」(DTN)を発表した(首相府ウェブサイトPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))。DTNは、2050年までのカーボンニュートラルを実現するという政府の方針を踏まえ、グリーンエネルギーへの移行に関する具体的施策をまとめたもの。DTNの下で12の戦略と31のアクションプランが設定され(前述DTNの30ページ目参照)、イスマイル・サブリ首相が議長を務める国家エネルギー評議会(MTN)がDTNの実施や関係省庁間の調整を行う。MTNが、技術進歩やエネルギー需要などに応じて、DTNを3年ごとに更新する。

DTNの一部を構成する「低炭素化目標2040」では、2040年までに達成を目指す9つの目標として、2018年との比較において以下を掲げた。

  1. 公共交通機関の利用率を20%から50%へ
  2. 電気自動車(EV)の普及率を1%未満から38%へ
  3. 大型車へのB30(バイオ燃料を30%混合した燃料)の導入
  4. 海上輸送での液化天然ガス使用比率を0%から25%へ
  5. 産業部門での省エネ率を1%未満から11%へ
  6. 住宅部門で省エネ率を1%未満から10%へ
  7. 再生可能エネルギーの総設備容量を7,597メガワット(MW)から1万8,431MWへ
  8. 設備容量に占める石炭比率を31.4%から18.6%へ
  9. 一次エネルギー総供給量に占める再生可能エネルギーの割合を7.2%から17%へ

政策の発表に際し、イスマイル・サブリ首相は、これらの目標達成に向けた低炭素化の取り組みにより、マレーシアのGDPは年平均130億リンギ(約4,030億円、1リンギ=約31円)増加し、20万7,000人以上の新規雇用創出が期待できると述べた。また、資源の最適利用により、エネルギー自給率を48%から72%へ向上できると推計している。首相は、DTNが新型コロナウイルス感染症の打撃を受けたマレーシア経済の回復を後押しするものだとも強調した(「ニューストレーツ・タイムズ」紙9月19日)。特にEV利用による低炭素化や、水素やバイオ燃料などの新エネルギーの生成・貯蔵などで、新たな機会が見込まれるとした。マレーシア石油資源公社(MPRC)のモハド・ヤジド・ジャーファル社長兼最高経営責任者(CEO)も、石油ガス業界によるクリーンで再生可能な資源への転換を、DTNが後押しすることへの期待を示した(ベルナマ通信9月19日)。

一方で、ザフルル・アジズ財務相は20日、グリーン経済化を急ぐと雇用喪失につながる恐れもあるとし、移行は徐々に進めるべきとの見解を示している。同相は、脱炭素化に取り組む国営石油会社ペトロナスを例に、石油・ガス部門で5万人を雇用する同社が太陽・水素事業に急激に転換すれば、その過程で多くの労働者を解雇することになり、地域経済や社会に負の打撃を与えると指摘した。これを回避するには、政府や労働者、経営者の対話とともに、労働者の再訓練なども含めた慎重な対策が必要だとした(「スター」9月20日)。

(吾郷伊都子、エスター頼敏寧)

(マレーシア)

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