政府、稼働中の全原発3基を2023年4月半ばまで稼働延長と決定

(ドイツ)

デュッセルドルフ発

2022年10月27日

ドイツ連邦政府は10月19日、原子力法の改正案を閣議決定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ドイツでは現在稼働している原発は3基のみ(添付資料図参照)で、当初は2022年末に廃止して「脱原発」を完了する予定だった。今回の改正案では、この3基を2023年4月15日まで緊急時の予備電源として稼働するとしている。今冬の電力の国内安定供給や、特にフランス(注1)など欧州諸国に向けた電力供給が目的だ。4月16日以降の延長や2023~2024年冬期の再稼働はないとした。また、追加の燃料は調達しないと決定した。保有する燃料のみを利用するため、原子炉の出力は徐々に低下する見込み。

原発の稼働延長については、9月5日に経済・気候保護省がバイエルン州の「イーザル2」とバーデン・ビュルテンベルク州の「ネッカーベストハイム2」の2基の稼働延長を発表していた(2022年9月13日記事参照)。一方、稼働延長を巡っては、現政権を担う3党〔社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)〕のうち、脱原発の緑の党と稼働延長を求めるFDPの間で激しい対立が生じていた。これを踏まえ、オラフ・ショルツ首相(SPD)が指令権(注2)を行使。3基の延長に関する政党間の対立を押さえ、閣議決定につなげた。首相の指令には、エネルギー効率化を一層促進するための法案作成などの方針も含まれているため、今後はこれに関する関連作業が進められる。

経済団体からは歓迎する声が上がるとともに、政府方針に注文も付けた。ドイツ産業連盟(BDI)は18日、「正しい決定だが、遅すぎる」としている。ドイツ機械工業連盟(VDMA)のティーロ・ブロートマン事務局長は同日、来春まで原発3基を稼働延長したとしても、「エネルギー効率法の可決と施行のほか、来年の再生可能エネルギーの目標容量の拡大が行われないと、うまくいかない」と指摘した。ドイツ商工会議所連合会(DIHK)のペーター・アドリアン会長は19日、原発3基の延長が「必要だ」とした上で、2023年冬のエネルギー価格高騰への対応として、新たな燃料を追加して稼働期間をさらに延長する考えを示した。

原子力法の改正案は、連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)を経て11月下旬をめどに可決される見込み。

(注1)フランスでは、メンテナンスや腐食割れの発見のため、原子力発電所の約半分が停止している上、一般家庭の約35%が電気を利用した暖房を使っている。

(注2)基本法(憲法)と連邦政府規則は、首相の内政・外交に関する方針を決定する権限(指令権)を定めている。今回、ショルツ首相は指令権を初めて発動。

(ベアナデット・マイヤー)

(ドイツ)

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