イベリア半島とフランスを結ぶ海底パイプラインの新設で合意

(スペイン、フランス、ポルトガル)

マドリード発

2022年10月24日

スペインのペドロ・サンチェス首相は10月20日、ブリュッセルでフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ポルトガルのアントニオ・コスタ首相と会談した。イベリア半島からフランスを経由し、EUと相互接続するパイプライン網の新設について合意PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

ロシアによるウクライナ侵攻でEUのエネルギー安全保障が脅かされる中、液化天然ガス(LNG)ターミナル機能が集積するスペインやポルトガルから中欧以北へとガスを供給する必要性が高まっている。スペインはドイツなどと共に、ピレネー山脈を横断するパイプライン計画「MidCat」の再開(注)を提案していたが、フランス側は環境への影響や採算性の問題、また、短期的な解決策にはならないとの理由でこれを拒否し、議論が膠着(こうちゃく)していた。

今回の会談では、「MidCat」パイプライン計画を撤回し、その代替案として、スペイン北東部バルセロナとフランス南部マルセイユを結ぶ海底パイプラインを建設することが合意された。この「バルマル(BarMar)」パイプライン(仮名)は、第一義的には水素や他の再生可能ガスの輸送用で、エネルギー転換の段階では天然ガスの一部輸送も可能となる。3首脳は12月9日に再度会談し、同計画のスケジュールや資金調達などについて詳細を詰める予定。

海底化で工期長期化とコスト上昇は不可避

バルマル・パイプライン計画は、今回急浮上したもの。欧州のガスインフラ事業者31社が参画する水素輸送戦略「欧州水素バックボーン(EHB)」でも、スペイン・イタリア間の海底パイプライン構想は想定されているが、スペイン・フランス間の海底インフラ構想はまったく出ていなかった。

スペインの天然ガス網管理会社エナガスの投資計画によると、今回撤回されたピレネー山脈経由のMidCat計画の建設費用は推定3億7,000万ユーロ。政府は8カ月でフランス側と接続できることを明らかにしていた。一方、海底パイプラインの場合は、費用も工期も大幅に膨らむ。テレサ・リベラ第3副首相兼環境移行・人口問題相は、10月21日のラジオ番組で、工期は5年以上かかることを示唆したほか、「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)としての認定を受け、建設費の大部分をEUの補助金で賄う方針」と強調した。

とはいえ、スペインとポルトガルにとって、今回のフランスとの合意の意義は大きい。これは、水素を含む送ガス網だけでなく、送電網の相互接続強化も盛り込んだ包括的な「グリーンエネルギー回廊」の構築をめぐる合意であり、EUのエネルギー網から孤立してきた両国にとっては長年の悲願の実現、また、EUのエネルギーハブを目指す上での重要な一歩につながる。

(注)Midi-Cataloniaの略。同パイプライン計画は、採算性の理由で2019年に中止されていた。

(伊藤裕規子)

(スペイン、フランス、ポルトガル)

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