ドイツ政府、ハンブルク港への中国国営企業COSCO子会社による出資を制限

(ドイツ、中国)

ベルリン発

2022年11月09日

ドイツ政府は10月26日、ドイツ北部ハンブルク港のコンテナ・ターミナル・トラーオルト(CTT)に対する、中遠海運港口(CSPL)による戦略的投資を一部制限する閣議決定を行った外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注1)。「国の秩序と安全保障への脅威」を回避するため、両社間で合意していたCSPLによるCTTへの35%の出資比率を25%未満に制限した。この制限により、CSPLによる役員の派遣や戦略的事業の決定などに関する拒否権を行使できないようにする。

CTTは、ハンブルク港の港湾物流事業を統括するハンブルガー・ハーフェン・ウント・ロジスティク(HHLA)の100%子会社で、トラーオルト埠頭(ふとう)のコンテナ事業を運営する。CSPLは中国国営の海運大手、中国遠洋海運集団(COSCO)の子会社で、港湾物流事業を担う。

ハンブルク港は海上コンテナ取扱量で欧州3位であり、同港における2021年の国別コンテナ取扱量では中国が256万TEU(注2)と、2位の米国の62万TEUを大きく引き離す。さらに、COSCOは1982年以来、同港と40年にわたる取引関係にある重要な海運会社だ。今回の出資を通じて、トラーオルト埠頭はCOSCOの欧州における貨物積み替えの「優先ハブ」に位置付けられる予定。

海洋デジタルインフラ分野への懸念も

キール経済研究所のエコノミスト、ロルフ・ラングハマー氏は、同日にコメントを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。今回の決定は両社のメンツを維持する妥協点だったとしつつ、中国国営企業であるCOSCOが中国の「一帯一路」構想における「デジタルシルクロード」と「海のシルクロード」で中心的な役割を担う存在であることに伴う懸念を指摘。海運デジタルインフラ分野でのCOSCOの支配的地位確立を阻止するには、(1)中国のサーバーにある中国以外の顧客データに中国政府がアクセスできないようにすること、(2)COSCOがブロックチェーン技術の導入により利用しようとしている貨物輸送ソフトウエアを競合他社に開放し、競合他社を競走上不利な状況に追いやりかねないデジタルコンピテンシーを構築できないようにすることが必要と提言している。

HHLAは、「同埠頭は全ての顧客に開放」しており、かつ「(CTTの)戦略的ノウハウ、ITや販売データに関するアクセス権限はすべてHHLA単独で保有される」として、出資に伴い経営や運用面でCOSCOの影響を受けないことを強調した。

今回の閣議決定にいたる議論では、連立政権内の中国政策に関する一般的な意見の相違が顕在化した。オラフ・ショルツ首相が率いる社会民主党(SPD)は中国に対し親和的、現実主義的で、経済的利益に鑑みて投資を推進したい立場をとり、緑の党と自由民主党(FDP)は、ロシアへのエネルギー依存になぞらえ、中国による重要インフラへの投資に反対を主張した(北ドイツ放送NDR10月22、25日)。

(注1)ドイツでは対外経済法と同法施行令により、EUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国以外の外国企業が、重要なインフラ産業に該当するドイツ企業に対して議決権の25%以上を買収・出資する場合、国の秩序と安全保障を脅かすか否かの審査が必要となる。

(注2)20フィートの海上コンテナに換算した貨物量。

(中村容子)

(ドイツ、中国)

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