全土に治安維持緊急事態宣言、前大統領支持派の暴動受け、南部経済への影響危惧の声も

(ペルー)

リマ発

2022年12月16日

ペルー首相府(PCM)は12月14日、治安維持活動の強化を目的とした全国緊急事態宣言を発令する大統領令第143-2022-PCM号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布した。これは、ペドロ・カスティージョ前大統領の罷免後(2022年12月14日記事参照)からペルー南部を中心に発生している前大統領支持派による暴動に伴うものだ。同大統領令は12月15日から30日間を期限としており、その間、国家警察は軍部の支援を受け、治安維持のための武力行使権を有することになる。また、憲法が保障している「人身の自由と安全」「住居の不可侵」「移動の自由」「集会の自由」なども制限されることになる。ルイス・オタローラ・ペニャランダ防衛相は自身のツイッターで「今回の緊急事態宣言は企業イベントや家族の集会、祭り、コンサート、商業活動などは禁止していない」と、同宣言による経済活動への制限はしないことを明言している。

デモによる暴動は特にカスティージョ前大統領の支持層が多い南部のアプリマック州、アレキパ州、イカ州などで発生している。政府は当初、これらの州を対象とした地域限定の非常事態宣言を導入していたが、その後も事態が収束しないため、全土への導入に踏み切った。なお、12月15日時点の市民オンブズマン(Defensoría del Pueblo)の発表によると、今回のデモ隊と治安維持部隊との衝突での市民の死者は9人、負傷者は112人に上り、治安維持部隊側も200人の負傷者が出ているという。邦人被害については今のところ報告されていないほか、暴動発生地域は極めて限定的で、多くの日系企業駐在員が暮らす首都リマ都市部は平穏な状況にある。

デモ隊は南部を中心に、一部の道路を封鎖、地方空港の占拠、商店や工場などの焼き討ちや略奪などを行っているが、その背部には、カスティージョ前大統領の支持層が金銭を与えて活動に加わるよう一部市民を誘導しているとの見方がある。一方で、このような活動資金は持続せず、事態が長期化するとの見通しは低いと分析する専門家もいる。また、一部デモ隊が求める総選挙の前倒し(注)については、既にディナ・ボルアルテ大統領は議会に法案を提出している。議会が同案を承認した場合には、早ければ2023年12月に選挙が前倒しされるため、事態の沈静化を期待する声もある。

経済活動面では、日系企業を含む多くの企業が、南部での暴動や国内物流ルートの一部封鎖などの影響から、地方営業所の一時的停止や製品や部品などの輸送停止などの事態に追い込まれている。また、年末年始のクリスマス商戦や夏季休暇などの観光商戦への影響を危ぶむ声が聞かれている。

(注)本来、次期総選挙は2026年4月に実施予定。総選挙前倒しには、議会が現政権と議会の任期を短縮するため臨時的に憲法を改正すると同時に、選挙法を基に前倒し総選挙の実施時期案を作成する必要がある。

(設楽隆裕)

(ペルー)

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