USMCAパネルでメキシコ勝訴、経済省は米国と対話の意向表明、自動車業界は裁定を歓迎

(メキシコ、米国、カナダ)

メキシコ発

2023年01月13日

メキシコ経済省は1月11日付でプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出し、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の自動車分野原産地規則を巡る紛争解決パネルで、メキシコとカナダが勝訴した(2023年1月13日記事2023年1月13日記事参照)ことを公表した。同プレスリリースでは、メキシコ政府は米国やカナダとの間で今後、対話と協力のプロセスに着手するとし、北米地域の経済統合強化に向けた最良の方法として、対話にコミットメントしていくと強調した。米国政府がパネル裁定に従わずに原産地規則の解釈を改めない場合、メキシコ政府は報復措置を取ることができるが、その考えは当面ないようだ。この背景には、USMCAの枠組みの下、米国・カナダとの間でメキシコのエネルギー政策を巡る協議が行われており、メキシコ政府としてはパネルではなく、対話を通じた解決を模索していることがあるとみられる。

メキシコ自動車工業会(AMIA)は1月12日、ツイッターで公式見解を出し、パネル勝訴を歓迎した。今回の裁定は自動車業界が今後もUSMCAを成功裏に適用していくための信頼感を付与するものだとし、USMCAが地域統合を促進し、現在と将来の投資の条件を付与し、北米の競争力を強化するとしているとAMIAは評価している。メキシコ自動車部品工業会(INA)のフランシスコ・ゴンサレス会長も1月12日付「エル・エラルド」紙の特設コラムで、今回の勝訴が3カ国の自動車産業の統合深化に向けた布石としてUSMCAに対する信頼性を示すものだとし、過度に厳格な原産地規則の解釈が引き起こす自動車生産者の過剰なコストを回避し、現行のサプライチェーンの保護に貢献すると語っている。

2022年11月時点でメキシコ製乗用車輸入の2割超がUSMCAの活用なし

2020年7月のUSMCA発効で自動車分野の原産地規則が厳格化されたことを受け、米国のメキシコ製乗用車輸入で自由貿易協定(FTA、注1)を適用しない輸入が増えている。北米自由貿易協定(NAFTA)が適用されていた2020年6月時点では、メキシコ製乗用車(HS87.03項、四輪バギーやディーゼルエンジン乗用車を除く)の米国への輸入に際し、NAFTAを適用しない輸入は5.1%(数量ベース)にすぎなかった。しかし、USMCA発効後の2020年7月には、USMCAを適用しない輸入の比率が15.4%に跳ね上がり、その後徐々に非利用率が上昇し(注2)、2021年7月に17.5%、2022年7月に18.7%、2022年11月現在では21.8%まで上昇している(添付資料表参照)。

今回のパネル勝訴で、車両全体の域内原産割合(RVC)計算で、協定別添4-Bの付属書の第3.8~3.9条が定めるエンジンなどコアシステムの計算方法とロールアップの適用が確定したため、車両のRVC計算が米国政府解釈より有利な方向で行えるようになる。そのため、USMCAの利用率が今後上昇する可能性はある。ただし、完成車の原産地規則には、コアシステム要件(注3)、鉄・アルミ要件(注4)、労働付加価値比率(LVC、注5)といった他の厳しい要件もあるため、今回の勝訴が与える影響は限定的とみられる。

(注1)2020年6月以前は北米自由貿易協定(NAFTA)、同年7月以降はUSMCA。

(注2)USMCAの自動車分野の原産地規則では、乗用車と小型トラックの原産地規則の一要件である車両全体の域内原産割合(RVC)の閾値(いきち)を発効後3年間で段階的に引き上げることとなっており、毎年7月に上昇するため、達成の難易度が段階的に増すことが影響している。

(注3)エンジン、トランスミッション、ボディーおよびシャーシ、シャフト類、サスペンション、ステアリング、先端バッテリー(電気自動車の場合)から成る最重要部品(コアシステム)が全て域内原産でないと、車両全体が原産品にならないという要件。ただし、全てのコアシステムを1つの大きな部品と見なし、全体でRVC75%以上をクリアした場合でも、原産品と認める「スーパーコア」救済要件(別添4-B付属書第3.9条)がある。

(注4)完成車メーカーが購入する鉄・アルミの70%以上が域内原産品でなければならないというルール。

(注5)車両の付加価値の40%以上(乗用車)、あるいは45%以上(トラック)を原則として、時給16ドル以上の地域で付けなければならないというルール。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国、カナダ)

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