米USTR、メキシコ自動車工場での2回目の労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年01月31日

米国通商代表部(USTR)は1月30日、メキシコ北部コアウイラ州ピエドラス・ネグラス市にある自動車部品メーカー、マニュファクトゥラスVU(以下、VU)の工場で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。USTRはVUについて、2022年7月にも、今回の提訴者と同じメキシコ労働総同盟(La Liga Sindical Obrera Mexicana)と労働者国境委員会(Comite Fronterizo de Obreras)からの申請に基づき、RRMの手続きを開始した経緯がある。同年9月には問題が解決していたが、再び同社工場で働く労働者の集会・結社の自由と団体交渉の権利が侵害された疑いが持ち上がったため、2回目の手続き開始となった(2022年9月20日記事参照)。

USMCAに基づくと、事実確認の要請を受けたメキシコ政府は調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は問題となっているメキシコの事業所からの製品輸入について、両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、最終的な税関での精算を留保できる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、VUの当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

USTRは2020年7月にUSMCAが発効して以降、RRMによる手続きを積極的に活用しており、今回で6回目となる。その全てが、メキシコ内の自動車関連工場での労働権侵害の疑いに基づくものとなっている。USMCA締結国の米国、メキシコ、カナダは域内から強制労働を排除することを重視しており、メキシコ政府もRRM手続きが開始されれば積極的に協力し、比較的短期間で問題解決に至ることが通例となっている(注)。一方、同一の事業所で2回目の労働権侵害の疑いが持ち上がったことを受けて、VUのグローバル本社が所在するミシガン州選出のダン・キルディー下院議員(民主党)ら民主党議員5人は2023年1月10日に、タイUSTR代表とマーティン・ウォルシュ労働長官に対して、「侵害が繰り返されないとの確証が得られないうちに、前向きな動きだけでRRMの手続きを完了しないよう求める」と懸念を表する書簡外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを送っている。

(注)解決済みの5件については下記記事を参照。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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