鉱業関連の法改正を公布、行政府案より業界に配慮した内容に

(メキシコ)

メキシコ発

2023年05月10日

メキシコ政府は5月8日、連邦官報で鉱業法、国家水資源法、エコロジー均衡環境保護一般法、廃棄物防止総合管理一般法の改正令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、翌日施行した。同改正は、上院が4月28日に強行採決した20の法案(2023年5月2日記事参照)の1つだが、下院では委員会審議や本会議での議論を経て4月21日に可決されていた。同改正は、行政府が3月28日に提出した法案(2023年4月17日記事参照)に対し、業界から強い懸念の声が上がったことを受け、与党・国家再生運動(MORENA)の下院議員団が業界の声を一部反映して修正したもの。

行政府案から変更された主な内容としては、開発コンセッションの期間が行政府案の15年から30年となり、さらに25年の更新が可能になった(注1)。鉱業用途の水利用権の期間も、行政府案の5年から鉱業コンセッションと同じ期間(30年+25年更新)となった。また、鉱区で産出される副産物(当初想定されていなかった鉱物で、リチウムやウラン、炭化水素など国が占有する資源は除く)については、コンセッション証書を変更することで事業者が利用できることとした。経済相が連邦政府機関に対して入札なしで直接鉱区を割り当てられるという条項(第15-BIS条)は残ったが、国が占有する戦略的鉱物を開発するための鉱区に限定された。これらの下院の修正について、メキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)は業界の声に耳を傾けて議論の場を設けた連邦政府や下院議員を評価する声明を出している。

新たなコンセッション付与には高いハードル

行政府案と比べると柔軟な内容になったものの、一連の法改正の中には、環境天然資源省への鉱山修復・閉鎖・閉鎖後監視計画の提出に加え、環境や地域社会への考えられ得る損害を修復するために必要な金額の保証の差し入れを義務付けるなど、民間事業者への規制を強化し、事業コストを増す内容が多く含まれる。メキシコ経営者連合会(COPARMEX)は4月23日付で声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出し、下院での修正を評価するとともに、上院でさらに専門家や業界の声に耳を傾けるべきと主張していたが、上院はこの声を無視して28日に強行採決を行って可決した。

識者の間で懸念が強いのは、鉱区開発コンセッションが公共入札によってのみ付与されることとなり、資源探査の主体が国営メキシコ地質調査所(SGM)と明確化されたため、民間事業者が主体となる資源探査が原則行えなくなる(注2)。SGMによる資源発見後に経済省による鉱区開発入札が行われるため、SGMによる資源探査が緊縮予算などを理由に滞れば、鉱区入札案件そのものがなくなる可能性がある。このことから、2024年10月以降の次期政権でも新規入札が一切行われない可能性も出てきた。

なお、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、2024年9月末までの現政権下では鉱山開発に関わるコンセッションを一切付与しないと明言している。

(注1)25年の延長後(当初契約から55年後)に入札が行われ、同入札で落札することができれば、引き続き25年間、鉱区を開発できる(入札結果が同点ならば、既存事業者が優先される、鉱業法第15条)。

(注2)SGMは民間企業と協力して資源探査を行うことができるが、主体はあくまでSGM。SGMに協力した民間事業者は、資源発見後に行われる開発入札で、参加した事業者の応札価格で最も高かった価格よりも最低でも10%低い価格を提示すれば、同入札を落札することができる(鉱業法第10-BIS条)。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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