欧州委、2023年のEUのGDP成長率予測を上方修正、インフレリスクも指摘

(EU、ユーロ圏)

ブリュッセル発

2023年05月22日

欧州委員会は5月15日、春季経済予測を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ロシアによるウクライナ侵攻や、エネルギー危機による混乱にもかかわらず、この冬のEU経済は予想以上に好調に推移したとの見方を示した。

2023年の実質GDP成長率は、EU27カ国が1.0%、ユーロ圏20カ国が1.1%と予測し、2月の冬季経済予測(中間予測、2023年2月15日記事参照)から各0.2ポイント増で若干上方修正した。前回の包括的な予測である2022年11月の秋季経済予測(2022年11月18日記事参照)からは、それぞれ0.7、0.8ポイント上方修正した(添付資料表1、2参照)。2024年の成長率は、EU1.7%、ユーロ圏1.6%と見通している。

EU加盟国の2023年の成長率は、ほぼ全加盟国で秋季予測から上方修正されたが、エストニアのみ1.1ポイント下方修正となった。

経済が好調な要因としては、EUがエネルギー供給先を多様化し、消費量を削減したことで、ガス貯蔵量が適切な水準となり、来季の冬のリスクが軽減されたと分析した。

貿易面では、2021~2022年はエネルギー価格高騰でEUの購買力が低下したが、エネルギー価格が急落して購買力が戻れば、家計や企業、政府といった域内経済の全てにプラスに働くとしている。長引くインフレにより家計の購買力は低下し、2023年のEUの個人消費は0.5%増とするものの、2024年には1.8%増に回復すると見込む。

EUの緩やかな経済成長のペースが労働市場に与える影響は限定的だとして、2023年のEUの失業率は6.2%と「歴史的な低水準」に近い状態を維持する見込み(添付資料表3参照)。

天然ガス価格の大幅な下落もあり、EUのコアインフレ率〔消費者物価指数(CPI)上昇率、注〕は2023年第1四半期(1~3月)にピークに達し、その後徐々に低下する。2023年平均は6.9%と2022年を上回るが、2024年は3.6%まで低下する見通し。

インフレ継続や米国発の銀行部門混乱など、新たな下振れリスク指摘

欧州委が警戒するのはコアインフレの持続だ。長引くインフレは家計の購買力を抑制し、より強硬な金融政策による影響が広域に及ぶ可能性があるとした。さらに、米国発の銀行部門の混乱を受けて、金融市場でリスク回避の動きが強まり、貸し出し基準が予測より引き締められる可能性にも触れた。エネルギー市場についても、価格変動は依然として非常に不透明だと指摘した。ロシアのウクライナ侵攻は不確実性を継続させていると言及した。

(注)エネルギーと未加工食品の価格を除いた価格の指数。

(大中登紀子)

(EU、ユーロ圏)

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