関心高まるEUの森林破壊防止デューディリジェンス義務化導入、小規模事業者のコスト負担に懸念

(ブラジル、EU)

米州課

2023年06月15日

ブラジルを代表するシンクタンクのジェトゥリオ・バルガス財団(FGV)は5月13日、森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化規則に関するウェビナーを開催し、注目を集めた。

6月9日にEU官報に掲載された、EUの森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化に関する規則は、EU域内で販売、もしくは域内から輸出する対象品が森林破壊によって開発された農地で生産されていないこと(森林破壊フリー)を確認するデューディリジェンスの実施を企業に義務付けるもの(2023年6月13日記事参照)。対象となる品目が、パーム油、牛肉、木材、コーヒー、カカオ、ゴム、大豆など、ブラジルの主要輸出品であることから、ブラジル国内では、ブラジル牛肉輸出協会(Abiec)など関連する業界団体が懸念を表明している旨が複数の現地紙で報じられていた。

ウェビナーに登壇した、サンパウロ・カトリカ大学のホドリーゴ・リマ教授は「同規則は森林破壊防止を目的としており、この目的や理念に共感する」と規則の発効に理解を示した。その上で、「規則に対応するためには、トレーサビリティの透明性を高めることが大事。他方で、デューディリジェンスの実施によりコストがかさみ、手続きが複雑化することは、特に中小零細企業には負担が大きい」と、規則を順守するプロセスで生じる懸念も明らかにした。

同規則では、EU内外の国の森林破壊・森林劣化に関するリスクのレベル分けを行うベンチマークシステムを構築しており、2024年12月30日までに欧州委が「高・低リスク国」のリストを実施規則により定めることになっている。こうした背景を踏まえ、リマ教授は「例えば、国ごとではなく州ごとにリスクレベルを区分するといった提案は必要で、今後EUと共に協議を重ねることが重要だ」と強調した。また、「EUが主導する炭素国境調整メカニズム(CBAM)(注)など、昨今、国際貿易と環境保護は切っても切り離せない事象で、ブラジルは世界の食料供給国として積極的かつ効率的に対応していく必要がある」との姿勢を示した。

ブラジル開発商工サービス省のデータベースcomexstatによると、ブラジルからEU向け主要輸出品のうち、大豆油かす(HSコード2304)、コーヒー(HSコード0901)、大豆(HSコード1201)などが影響を受ける。これらの3品目は、2022年のブラジルからEU向け輸出の上位2位から4位の品目(金額ベース)。この3品目だけで、EU向け輸出額の25.9%を占めている。

(注)炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、EU域内の事業者がCBAM対象製品を域外から輸入する際、域内で製造した場合に、EU排出量取引制度(EU ETS)に基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付けるもの。2025年末までは対象製品を輸入する事業者に対する報告義務のみが適用される。詳細はジェトロの調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向」(2021年12月)を参照。

(辻本希世)

(ブラジル、EU)

ビジネス短信 040e7dcbd84257eb