リチウム開発州の憲法改正で反対デモ、先住民土地所有権の扱いが引き金

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2023年06月30日

アルゼンチンでは616日から20日にかけて、豊富なリチウム資源を有するフフイ州で先住民などによる大規模な抗議デモが発生した。615日にフフイ州の制憲議会が承認した同州の憲法改正がきっかけで、デモ隊が警察と衝突し、多数の逮捕者と負傷者が出た。デモの原因は、憲法改正の内容が、土地の所有権を証明できない先住民が、リチウムなど鉱物資源の開発によって土地を追われる可能性を想起させたことだ。そこに、教職員組合よる賃金改定の要求も加わり、デモが大規模化した。

今回の憲法改正は、1986年に同州憲法が改正されて以来の改正で、212条のうち193条を改正する包括的なもの。憲法改正を審議する制憲議会では、州政府与党の急進市民同盟(UCR)だけでなく、国政与党の正義党(ペロン党)勢力も、憲法改正を支持していた。

大規模な抗議デモの原因となったのは、改正後の第36条、第50条の2つの条文だ。第36条は私有財産について、「財産の所有者の権利行使を妨げる者による占拠は、財産権に対する重大な侵害とみなされる」と定めた。そして、第50条は先住民の権利と保障について、先住民とその居住地の法的地位を決定する権限を行政府に与えた。つまり、誰が先住民で誰がそうでないか、先住民が土地に対する権利を有するか否かを、州政府が決定するということになる。

さらに、第67条の改正も問題視された。第67条は「道路や街路の封鎖、公共施設の占拠は犯罪でありこれを禁止する」と定めたが、憲法が定める社会的抗議の権利を侵害するとして一部市民の反対を招いた。大規模なデモの発生を受けて、ヘラルド・モラレス知事は620日、第36条と第50条の2つの条文の改正を撤回すると発表したものの、第67条の内容は維持され、改正後の新憲法は621日に官報公示された。

フフイ州は、自身が先住民の一員と自認する人の割合が高い州だ。しかし、先住民は、居住する土地の所有権を証明する文書が持たないことが多く、それが土地の所有権をめぐる紛争の原因となっている。フフイ州は、豊富なリチウム資源を有する州の1つで、近年は開発が活発化している。リチウムの採掘が行われる土地は先住民の居住地に近接していることが多く、リチウム採掘事業の認可に関連して先住民の不満が以前から高まっていた。リチウム開発の是非に一石を投じる出来事だ。

(西澤裕介、サンティアゴ・ブリニョーレ)

(アルゼンチン)

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