欧州委、電力需要削減規則を今冬に向けて延長しない方針

(EU)

ブリュッセル発

2023年06月09日

欧州委員会は6月5日、EUがエネルギー危機を受けて2022年10月に時限措置として導入した電力需要削減策などを含む緊急介入規則(2022年10月3日記事参照)に関して、適用延長を提案しない方針であることを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これにより、緊急介入規則は2023年末まで適用されるものの、緊急介入規則に含まれる一連の措置は順次終了することになる。なお、電力需要削減策については3月末に終了している。

今回の方針は、緊急介入規則の実施状況に関する報告書の中で明らかにした。報告書によると、EU域内の主要電力市場の電力卸価格は、2022年8月に1メガワット時(MWh)当たり350ユーロを超えるなど、記録的水準に達したものの、同年12月以降は劇的に低下し、現時点では1MWh当たり80ユーロ以下で推移している。EU域内での電力価格高騰の原因となったガス価格も、2023年以降は下落して、その後安定しており、2023~2024年の冬季に2022年のような電力価格高騰が起きる可能性は低いとの市場予測につながっていると指摘。こうしたことから、欧州委は、緊急介入規則の延長は必要ないと結論づけた。ただし、欧州委はこの結論はあくまで予備的なもので、電力供給や価格に予期しない変化があった場合は、この結論を修正する可能性があるとしている。

欧州委は、緊急介入規則における電力需要削減策のような短期的な措置はもはや必要ないとする一方で、需要サイドの措置自体は今後も重要としている。こうしたことから、3月に発表した電力市場改革法案(2023年3月16日記事参照)には、恒久的な措置として、送電系統運用事業者によるピーク時の需要削減に向けたインセンティブ策の実施を可能にする規定などが盛り込まれている。

なお、同じくエネルギー危機対策の時限措置として導入したガス需要削減規則(2022年8月9日記事参照)については、2024年3月末まで適用を既に延長している(2023年3月27日記事参照)。EUはリパワーEU計画(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)の下でロシア産天然ガスの依存削減に取り組んでおり、今後もロシア産天然ガスの供給削減分を補う必要があることが背景にある。

(吉沼啓介)

(EU)

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