メキシコ政府、USMCAに基づく8件目の労働権侵害確認要請を正式受諾

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2023年06月05日

メキシコ経済省は、米国タイヤ大手グッドイヤーのサンルイスポトシ州の工場における労働権侵害を巡る米国政府からの事実確認要請(2023年5月23日記事参照)を正式に受諾し、労働権侵害の有無に関する調査を開始したことを、米国政府に通知したと6月1日に発表した(経済省プレスリリース6月1日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、注1)。

米国政府に労働権侵害を訴えたのは、メキシコ労働総同盟(Liga Sindical Obrera Mexicana:LSOM、注2)だ。同労組は、タイヤを含むゴム製品製造業(Industria Hulera)には全国的な同業種の労使関係を定める産業別労働協約(Contrato-Ley)が存在し、同内容を下回る労働協約(CCT)の適用は労働法違反だと主張している。なお、グッドイヤーのサンルイスポトシ工場は、メキシコ労働者総連合(CTM)傘下のミゲル・トゥルヒージョ組合とCCTを締結していたが、同CCTの適法化(注3)を巡る4月23日の投票に不正行為が見られたとして連邦調停労働登録センター(CFCRL)はやり直しを命令、5月7~8日に政府などの監視の下で行われた再投票においては873人の労働者が参加、反対727、賛成140となり、同適法化は否決された(CFCRLプレスリリース5月8日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

産業別労働協約の存在有無が焦点

LSOMは、タイヤを含むゴム製品製造業には、個別のCCTではなく、産業別労働協約が適用されると主張しており、その是非が焦点となる。産業別労働協約は、ゴム製品以外では、繊維産業(製品に応じて4分野)、砂糖・アルコール産業、ラジオ・テレビ放送業の合計6つしか存在しない。基本的には、業界の全組合員の3分の2以上の支持を得て締結が発議され、それら組合員を雇用する雇用主との間で内容を協議した後、参加する組合員と雇用主の過半数の承認を得て成立し、連邦官報で公布されなければならない。有効期限は最長2年。

連邦官報で公布されたゴム製品製造業の最新の産業別労働協約は2015~2017年(注4)のもので、それ以降に更新され、連邦官報で公布された同分野の産業別労働協約はないため、現時点で有効と考えられるものはゴム製造業には存在しない。しかし、LSOMは、労働法第421条の「産業別労働協約は同業種の全組合員の3分の2以上が同意した場合のみ終了する」という規定を援用し、産業別労働協約には期限がないと主張している。

(注1)メキシコ政府は事実確認要請から45日以内に調査結果を米国政府に報告する。

(注2)メキシコ労働総同盟は、2022年7月にUSMCAの枠組みでメキシコ北部コアウイラ州の米国系自動車部品メーカーのマヌファクトゥラスVUを労働権侵害(2022年9月20日記事参照)の疑いで訴えている。

(注3)雇用主が労働組合との間で2019年5月1日以前に締結した既存の労働協約の内容を、職場の労働者の過半数の賛成を経て再承認するプロセス。

(注4)2015~2017年のゴム製造業の産業別労働協約には、週の労働時間が40時間とされている。メキシコの労働法では最長で週48時間の労働を認めており、製造業の多くの工場は、昼間勤務であれば週48時間勤務を採用しているため、産業別労働協約が適用された場合、労働時間の短縮など、雇用主にとっては大きなコスト増につながる可能性がある。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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