EU理事会、原子力の扱い巡り対立、電力市場改革法案で合意に至らず

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月20日

EU理事会(閣僚理事会)は7月11~12日、エネルギー担当相による非公式会合を議長国スペインのバジャドリードで開催した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。会合では、重要原材料法案(2023年3月22日記事参照)などEUが推進する「戦略的自律」に沿った政策のほか、電力市場改革法案(2023年3月16日記事参照)などが議論された。

電力市場改革法案に関して、EU理事会は6月19日に相場操作防止策など法案の一部の立場を採択したが、現地報道によると、法案の主要部分の1つである国家補助による二重の差額決済契約(Contract for Difference、CfD、注1)の活用対象を巡って、フランスなど原発や再生可能エネルギーの併用推進を求める原発派の加盟国と、ドイツなど再エネのみを推進する再エネ派の加盟国との間で意見の相違が大きく合意に至っていない。今回の会合でも、電力市場改革法案の主要部分に関しては合意に至らず、EU理事会とは別に原発派と再エネ派がそれぞれ会合を開くなど、むしろ対立を露呈するものとなった。

フランスなど原発派有志国、原子力を再エネと同様に支援すべきとする総括発表

フランスは2023年2月、原子力発電を推進する有志国とともに「原子力連盟(Alliance du nucléaire)」を結成。再エネ指令改正案(2023年4月3日記事参照)など、EUの関連法案で原子力への支援拡大に向けた働きかけを強めている。背景には、EUによる消極的な原子力支援がある。欧州委員会は、欧州グリーン・ディールやエネルギー安全保障策「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)の一環として再エネを強力に推進する一方で、フランスなどが低炭素技術として推す原子力発電に関しては、EUの関連法案で限定的な役割しか認めていない。

原子力連盟(注2)は4回目となる今会合で、EUの気候中立実現とエネルギー安全保障の強化で、原子力は再エネと補完し合う重要な技術で、原子力はEU電力市場の安定に欠かせないことを再確認。「EUでの原子力活用に関する新戦略」と題する総括を発表した。気候変動やエネルギー安全保障などのEU政策で、技術中立の原則やEU条約が規定するエネルギーミックスを決定する加盟国の主権を十分に考慮しなければならないとして、原子力などの低炭素技術を再エネと同様に支援すべきとしている。また、欧州委に対して、原子力の役割をあらゆる政策文書や法案に十分に反映する明確な方向性を示すべきとし、具体的には電力市場改革法案のほか、ネットゼロ産業法案(2023年3月20日記事参照)や国家補助緩和策(2023年3月15日記事参照)で原子力への投資支援を容易にするよう求めている。さらに、持続可能な経済活動の分類の「EUタクソノミー」でも、原子力が一定の条件で持続可能な経済活動に含まれたことから(2022年7月14日記事参照)、EUの各種補助金の対象に原子力を含めるべきとしている。

(注1)CfDは通常、再エネ電力の市場価格が一定の下限価格を下回った場合に、政府が再エネ事業者にその差額を補填(ほてん)するものだが、二重のCfDでは、下限価格に加えて上限価格も設定し、市場価格が上限価格を上回った場合に、その差額を事業者が政府に支払う。

(注2)参加国はフランスのほか、ブルガリア、クロアチア、チェコ、フィンランド、ハンガリー、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、スウェーデン。ベルギーとイタリアも会合には出席したが、総括には参加していない。

(吉沼啓介)

(EU)

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