外国企業などのロシア国内資産凍結を可能にする法律成立

(ロシア)

調査部欧州課

2023年08月22日

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月4日、連邦法第422-FZ号「幾つかの法令の改正について」に署名した。発効は2024年2月1日。この改正により、在ロシアの外国企業や駐在員の金融取引制限や資産凍結の法的根拠が整備された。現地報道によると、ロシア企業などの国外資産凍結への対抗や、ロシアからの撤退を意図する企業への牽制とみられる。

改正のポイントは次のとおり。

a.同改正を反映した連邦法第281-FZ号「特別経済措置および強制措置について」(2006年12月30日付)に定めた外国・外国機関・外国人など(注1)を「ブロック対象者」として指定する権限を大統領に与えた。

b.同じく連邦法第281-FZ号に定めた各種制限措置(特別経済措置)の一部、特に金融関連措置の具体化と新たな条項の追加により、ブロック対象者のロシア国内資産を凍結する法的根拠を与えた。

大統領が安全保障会議の提言に基づいてブロック対象者を決定し、それを受けて連邦政府が具体的な措置を定める。金融機関など(注2)に対して、ブロック対象者が関係する取引を禁止することも明記した。

金融資産が凍結されても、ブロック対象者が個人の場合、次の行為は可能だ。

a.本人と同居家族1人当たり月額1万ルーブル(約1万5,000円、1ルーブル=約1.5円)を上限とする額の給与などの受け取り、使用すること。

b.上記に加え、本人と同居家族1人当たり月額1万ルーブルまで医療費として支出すること。

c.税金、行政手続き関連手数料、反則金などを支払うことなど。

企業を含む外国機関の場合、従業員に対し生活最低限度額(2023年8月時点で月額1万5,669ルーブル)を上限に給与の支払いが可能だ。

同法の施行により、資産凍結以外に労働法上の問題が生じる可能性がある。外国企業の活動に詳しいロシア人弁護士はジェトロのヒアリング(8月16日)に対し、「生活最低限度額を上回る額の給与を被雇用者の口座に送金しようとしても拒否される可能性が高い。その場合、雇用契約上の雇用主の義務違反となり、労働争議に発展するリスクがある」と指摘する。また、外国人駐在員が高度熟練専門家(HQS)の資格で労働許可を取得している場合、生活最低限度額ではその要件(注3)も満たせなくなり、資格喪失の恐れもあるという。

(注1)外国、外国機関、外国人が議決権の50%以上を有するロシア法人を含む。

(注2)銀行などの金融機関のほか、証券会社、保険会社、投資ファンド、リース会社、不動産会社などを含む。

(注3)月額給与が16万7,000ルーブル以上であること。2024年3月1日以降、これが四半期当たり75万ルーブル以上に引き上げられる。

(欧州課)

(ロシア)

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