政権初の国家政策「マダニ経済政策」、構造改革による5.5%超の経済成長目指す

(マレーシア)

クアラルンプール発

2023年08月02日

マレーシアのアンワル・イブラヒム首相兼財務相は7月27日、政権発足後初の総合的な国家政策である10カ年計画「マダニ(MADANI)経済政策:国民力の強化」を発表した(首相府スピーチ原稿外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。MADANIは、「持続可能性、繁栄、革新、尊敬、信頼、思いやり」のマレー語頭文字から付けた現政権の政策理念だ(2023年3月7日記事参照)。マダニ経済政策による国際競争力向上や投資誘致強化などを通じて、5.5%超のGDP成長を目指したい考えだ。

アンワル首相は、マレーシアではアジア通貨危機以降、高コスト、低賃金、低利益、競争力欠如の悪循環に陥っていると現状を振り返った上で、今後10年間で悪循環から脱却し、国民所得増加や国家経済の再構築をすべく次の7つの具体的目標を掲げた。

  1. GDPで世界トップ30入り
  2. 世界競争力指標(GCI)で世界トップ12入り
  3. 国民生活の豊かさを示す「人間開発指数(HDI)」で世界トップ25入り
  4. 従業員報酬のGDP比を45%へ引き上げ
  5. 汚職や腐敗を示す「腐敗認識指数(CPI)」で25位入り
  6. 財政赤字のGDP比を3%以下へ抑制
  7. 女性の労働参加率を60%へ引き上げ

特に1.について、アンワル首相は、2022年時点で世界37位だったマレーシアのGDPは、「現状でも4~5%の経済成長を維持できるが、改革実行により5.5~6%の成長も可能」と見通した。

域内経済のリーダーを目指す構造改革、高付加価値投資に焦点

マダニ経済政策は、マレーシアをアジア経済のリーダーとすべく、高付加価値部門の活性化や投資誘致などによる経済構造改革が必要としている。具体的な施策は、10月13日発表の2024年国家予算案に反映される予定だ。

投資誘致策に関しては、間もなく発表する「新産業マスタープラン(NIMP)2030」でも詳細を明らかにする。これまでも、電気電子(E&E)や化学分野の振興に注力していたが、NIMPでは経済高度化に資する活動にさらに焦点を当てる。例えば、ペナンの電気・電子集積では、半導体部品製造のみならず、集積回路の設計へのシフトを強めたい考えだ。石油化学や油脂化学分野では、特殊化学品の製造を奨励する。こうした特定分野に対し投資のインパクトに応じた税制優遇を導入する、とアンワル首相は述べており、総花的でなく、対象事業を選定した優遇策を検討しているとみられる。中小企業向けには、スタートアップや起業家支援、研究開発・商業化・イノベーション(R&D、C&I)エコシステムの強化、中小企業のデジタル化などに資金を拠出するとした。

海外投資家や専門家など人材の誘致策としては、ジョホール州イスカンダル開発地域を金融特別区とすべく、同区内の高技能職の所得税を15%に抑え、ファストトラック入国手続きを適用する(2023年6月13日記事参照)。

なお、投資誘致においては、マレーシア投資開発庁(MIDA)に機能を集約し、高付加価値雇用の創出につながる投資案件に重点を置く。

今回の発表に関し、格付け会社MARCは「持続可能な成長への道を切り開くマダニ経済政策は、マレーシアに前向きな変化をもたらす」と評価した。一方、マレーシア科学技術大学(MUST)のジェフリー・ウィリアムズ学部長は、中低所得者支援として発表された約1,000万人への電子マネー支給[総額10億リンギ(約310億円、1リンギ=約31円)]や公務員への特別手当などは、経済構造改革に直接寄与するものではなく、2023年8月に行われる州議会選挙(2023年7月6日記事参照)を意識したばら撒き策だとして批判している。

写真 (左写真)政策発表会場でのアンワル首相と各大臣、(右写真)会場を去るアンワル首相(いずれもジェトロ撮影)

(左写真)政策発表会場でのアンワル首相と各大臣、(右写真)会場を去るアンワル首相(いずれもジェトロ撮影)

(吾郷伊都子、エスター頼敏寧)

(マレーシア)

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