経済省、サン・マルティン鉱山労働権侵害の事実確認はUSMCA対象外と発表

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2023年08月02日

メキシコ経済省は8月1日、サン・マルティン鉱山での労働権侵害の疑いに関する事実確認については、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM/MLRR)」の対象外と発表した。同省はUSMCAではなく国内法規に基づき、国内の労働当局が労働者の権利尊重と労働法の適切な適用を監視するとしている(経済省プレスリリース8月1日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。サン・マルティン鉱山は鉱山開発最大手グルーポ・メヒコがメキシコのサカテカス州に所有する鉱山で、USMCAに基づき、米国政府から労働権侵害の疑いに関する事実確認要請があった(2023年6月19日記事参照)。

経済省は今回の案件をUSMCAの対象外と判断した理由として、労働権侵害はメキシコ全国鉱夫・冶金(やきん)・鉄鋼労働組合(SNTMMSSRM)が2007年7月に起こしたストライキに端を発し、SNTMMSSRMが問題視している全ての労働権の侵害はUSMCAの発効(2020年7月1日)以前に行われたもので、法の遡及(そきゅう)適用は認められないことを挙げている。特に、グルーポ・メヒコが一部の労働者との合意に基づいてストをSNTMMSSRMの合意なしに一方的に解除したことが問題視されているが、これも2018年8月23日に行われたとしている。さらに、サン・マルティン鉱山から米国に輸出されていることは確認されておらず、米国との間の貿易に与える悪影響も立証されないとしている。

他方、サン・マルティン鉱山の労働権侵害は国内法規に基づいて解決しつつある。連邦調停仲裁委員会(JFCA)は2023年6月9日、グルーポ・メヒコが2018年に締結した一部労働者との合意を無効とし、6月14日にはSNTMMSSRMによる2007年7月のストを正当なものと裁定、SNTMMSSRMがグルーポ・メヒコとの労働協約の締結主体であることを確認し、スト参加者の係争期間中の未払い給与と福利厚生をグルーポ・メヒコに支払うよう命じた。メキシコ政府は「サン・マルティン鉱山の労働権侵害は、USMCAのRRMの枠外で国内当局が間もなく最終的な決定を下すと結論付ける」としている。

経済省はRRMの合理的な運用を要請

メキシコ政府は今までのUSMCAのRRMに基づく米国からの要請に迅速に対応し、事実確認や是正措置の策定に積極的に協力することで、メキシコの労働者の権利を保護する姿勢を強調してきた。しかし、7月6~7日にカンクンで開催されたUSMCA自由貿易委員会の場で、米国からの事実確認要請に十分な根拠がないとの懸念も表明していた。経済省は米国通商代表部(USTR)との会合で「RRMの合理的な善意に基づく運用が重要で、国内の制度にとって代わるのではなく、補強するために用いられるべき」「全ての事案が十分な根拠を伴い、労働権侵害がUSMCA発効後に行われ、当該事業所と提訴国の間に貿易関係が存在することを確認すべき」という懸念を米国に伝えたとしている(経済省プレスリリース7月6日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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