モロッコ山間部で大地震、被災地域は特定地域に集中

(モロッコ)

ラバト発

2023年09月12日

98日午後1111分(モロッコ時間)に3,0004,000メートル級のアトラス山脈が走るモロッコ中部の内陸部を震源に、マグニチュード6.8の地震が発生した。震源地の山間部や人口100万都市マラケシュなどを中心に、土壁の家屋が多数倒壊した。内務省の発表(11日午前10時時点)では、死者2,497人、負傷者2,476人。最も被害が大きかった、震源地に近い山間部に位置するアルハウズ県(Province d’Al Haouz)では死者1,452人で、被災者は各地でさらに増える可能性がある。

モロッコの首都ラバトに集まる地元政府機関は、震災犠牲者を悼み、施設に掲揚する国旗を週末から半旗を掲げている。地元経済新聞エコノミスト(L’Economiste)は911日、一面で今回の悲劇を「哀悼と動員(Deuil et mobilisation)」と伝えた。

震源となった山岳地方は、モロッコで人口の23割を占めるとされるベルベル人(注)の居住エリアで、山稜や谷あいに集落が点在し、ロバが輸送手段とされるところもある。近年はエコツーリズムで注目を浴びてきた。

地震発生後、直ちにモハメッド6世国王の指示のもと、官民挙げて緊急支援に取り組んでいるが、交通手段が限られ援助のスピードは上がらない状況だ。外国救援隊は、現時点でスペイン、英国、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールから受け入れており、救助犬を導入して被災者捜索が始まっている。

首都ラバトでは、体感で10秒程度、横揺れをわずかに感じた程度で、慌てて住民が外に飛び出す姿は見られなかった。

北部ジブラルタル海峡を望む国際貿易港タンジェ、ラバト、商都カサブランカでは物流、電気・水道・通信など生活インフラに影響はなく、被災地に近いマラケシュエリアでも高速道路や鉄道、空港は通常どおりだ。

70社の進出日系業のほとんどは今回の被災エリアになく、カサブランカやタンジェなど、大西洋沿岸に集中している。当地で従業員を多数雇用するワイヤーハーネス製造企業2社に確認したところ、操業に影響は出ていないと回答があった。また、マラケシュの日系食品関連資材製造企業は、操業に影響が出るほどのダメージは出ていないとのことだった。

1900年以降、マグニチュード6を超える地震はモロッコではあまり起きておらず、地元メディアは、今回の地震は過去最大級と報じている。近年では、1960年に大西洋岸アガディール(マグニチュード5.85.9)、2004年に地中海沿岸アル・ホセイマ(同6.3)で起きた地震が甚大な被害をもたらした。南西部アガディールから、北部のアル・ホセイマにかけて、アフリカプレートとユーラシアプレートのぶつかり合いで隆起した山岳地帯(アンティ・アトラス山脈、今回の震源地オート・アトラス山脈、モワイヤン・アトラス山脈)があり、専門家は、今後も同エリアを震源とする地震が発生する可能性はあるとしている。

今回被災したマラケシュは、世界遺産の旧市街とモダンな新市街で形成される観光都市で、1年を通して国内外から多くのビジネス関係者や観光客が訪れる。被災時はユネスコの国際会議が開催されており、また10月には世界銀行グループと IMFの年次総会の開催が予定されているなど、多くの国際会議やイベントがマラケシュで計画され、「アフターコロナ」で観光業の復活を喜ぶ中での出来事だった。

ワイヤーハーネス製造の矢崎総業は、援助物資を積んだトラックの写真をSNSで公表した。被災者の緊急救援と復興支援が求められている。

写真 被災前のマラケシュ新市街地駅周辺(2023年5月ジェトロ撮影)

被災前のマラケシュ新市街地駅周辺(2023年5月ジェトロ撮影)

写真 被災前のマラケシュ旧市街地居住エリア(2023年6月ジェトロ撮影)

被災前のマラケシュ旧市街地居住エリア(2023年6月ジェトロ撮影)

(注)ベルベル人:7世紀のアラブ人侵攻以前からモロッコを含む北アフリカ地域に住む先住民族。モロッコ政府は2011年からアラビア語と同様、ベルベル語を公用語としている。

(本田雅英)

(モロッコ)

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