南アジア各国で大気汚染による健康被害が深刻化

(インド、スリランカ、ネパール、 パキスタン、バングラデシュ)

調査部アジア大洋州課

2023年09月29日

米国のシカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)は8月29日、「大気質生命指数(AQLI)」に関する最新のレポートを発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

同レポートによると、世界の中でもアジア・アフリカ諸国が大気汚染による健康被害を最も受けており、大気汚染による健康被害の約4分の3がバングラデシュ、インド、パキスタン、中国、ナイジェリア、インドネシアのわずか6カ国に集中しているという。また、大気汚染物質のPM2.5(微小粒子状物質)を世界保健機関(WHO)のガイドラインに準じて削減すると、世界の平均寿命は2.3年延びると指摘した。

約20年間に及ぶ工業化や経済発展、人口増加に伴い、大気汚染が深刻化した南アジアは、世界でも大気汚染が人命に致命的な影響を及ぼしている最たる地域だ。2013年以降、世界の公害増加の約59%はインドからもたらされているとされ、同地域のPM2.5は10%弱増加、同地域の平均余命を約5.1年短縮している。

南アジア各国政府は問題に対処すべく、さまざまな対応策を講じている。

例えば、インド政府は2019年、「公害との戦い」を宣言し、大気汚染削減を目標に掲げた国家大気浄化計画(National Clean Air Programme:NCAP)を立ち上げ、粒子状物質汚染レベルを2024年までに、2017年の同レベルから20~30%削減することを目指している。

ネパールは、カトマンズ渓谷の大気質管理行動計画を制定し、自動車や産業からの排出を抑制している。

パキスタンでは、政府が大気汚染防止対策として、より多くの大気汚染モニターを設置し、暖房によるエネルギー需要が高まる冬季には、汚染度の高い地区の工場を閉鎖するようになった。

バングラデシュでも、大気汚染物質の排出を抑制するため、現在8都市でリアルタイムの大気汚染モニターを設置すると同時に、モニタリング能力も倍増させている。同国では、レンガ窯が首都ダッカの粒子状物質汚染の58%を引き起こしていることから、2019年にレンガ窯に関する法律が改正され、住宅地、商業地、農業地付近へのレンガの設置が禁止された。さらに、政府は2025年までにレンガ使用を段階的に廃止し、コンクリートブロックに切り替えることも計画している。

(寺島かほる)

(インド、スリランカ、ネパール、 パキスタン、バングラデシュ)

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