欧州委、中小企業支援政策パッケージを発表、支払い遅延防止策を強化

(EU)

ブリュッセル発

2023年09月27日

欧州委員会は9月12日、中小企業向け支援のための政策パッケージを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の政策パッケージは、多くの中小企業が直面する支払い遅延や事務負担といった課題に対処するもので、商取引における支払い遅延防止規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)中小企業向け本社税制(HOT)指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の2法案と、中小企業向け支援の概要をまとめた政策文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)からなる。

支払い遅延防止規則案は、厳格な支払期限の設定、遅延利息の自動的な付加、効果的な執行や救済メカニズムを導入するための現行指令の改正案だ。域内では、商取引における請求のうち、平均して約半数に支払い遅延が生じており、ドミノ効果により広範囲の債権者に影響がでている。中小企業への影響は特に大きく、倒産の4件に1件が支払い遅延に起因するものとされる。

そこで支払い遅延防止規則案は、まず商取引における支払期限の上限を請求書の受領から30日に設定する。当事者間の合意により、支払期限の上限を30日以下に設定することは認められるが、30日を超えて設定することはできない。また、支払いを遅延した場合、債務者には遅延利息が自動的に付加される。利率は、ユーロを通貨とする加盟国においては、欧州中央銀行(ECB)の基準レートの8ポイント増とする。加えて、債務者には、支払い遅延時の債権回収費用として決済ごとに一律50ユーロが課される。これらは強行規定で、当事者間の合意により免除することはできない。また、加盟国は、規則案の執行を強化すべく、調査や制裁措置の権限を持った執行当局を設置するとともに、裁判外紛争解決手続き(ADR)の任意利用も促進する。このほか、規則案は、現行の加盟国法を通じて適用される指令を改正し、域内で直接適用される規則として提案されていることから、域内の国境を超えた取引においてもより効果的に適用されるとみられる。

HOT指令案は、域内で国境を越えて事業を展開する、中小企業の税制上の事務負担を簡素化する法案だ。対象となるのは、他の加盟国の恒久的施設を通じて事業を展開する中小企業。子会社を持つほど成長した中小企業グループは対象外となる。対象となる中小企業は、本社が所在する加盟国の税制に従って税務処理することができ、税務申告も本社が所在する加盟国の税務当局に提出するだけで済ませることができる。当該企業が事業を展開するその他の加盟国の税務当局に対しては、提出先の加盟国の税務当局から税務情報が提供される。

このほか、欧州委は政策文書において、規制負担の軽減、事務手続きや報告要件の簡略化など、中小企業に配慮した規制環境の整備を目指す方針を表明。中小企業向けの条項を、今後あらゆる法案において検討するとしている。また、中小企業の利益をEU政策により反映すべく、中小企業の課題に関して欧州委員会委員長に直接助言する「EU中小企業担当官」を新設する。

(吉沼啓介)

(EU)

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