労働時間を短縮する憲法改正に向けた公聴会を実施へ

(メキシコ)

メキシコ発

2023年10月10日

メキシコの与党・国家再生運動(MORENA)のイグナシオ・ミエル下院院内総務は10月5日、メキシコにおける労働時間の短縮に向けた憲法改正案について、下院本会議で本格的な審議を開始する前に、専門家や労働組合などの利害関係者から広く意見を聴取する目的の公聴会を開催することを発表した(下院プレスリリース10月5日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。就業時間短縮に向けた憲法改正案は、労働者の権利を定める憲法第123条を改正し、週最低2日の休日取得の権利を保障するとともに、週の労働時間の上限を現行の48時間から40時間に短縮する内容。4月25日に下院の憲法問題委員会を通過しており、下院本会議での審議が待たれていた。

メキシコの労働者の労働時間は国際的にみても長く(注)、労働者の心身への過度な負荷を減らすことにより労働生産性が高まるという意見も多い。しかし、製造業では週48時間の労働時間を前提にシフトを組んでいることが多いため、シフトを変更して雇用を増やすか、変更しない場合は残業代を支給するなどの対応が必要になり、労働コストの大幅な上昇が避けられない。メキシコ経営者連合会(COPARMEX)は、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール政権下で、年金積み立ての雇用主負担率の引き上げ(2020年12月22日記事参照)、人材派遣の原則禁止(2021年4月27日記事参照)、有給休暇の増加(2022年12月28日記事参照)など、雇用主にとってコスト上昇につながるさまざまな改正が立て続けに施行されてきたため、このタイミングで就業時間を大きく短縮する改正は、中小企業を中心に経営側への負担が大きい、と警鐘を鳴らす。また、労働コスト上昇が生産コストを上昇させ、インフレを招く恐れもあるとし、より慎重な分析を重ね、利害関係者の幅広い対話を通じた合意形成が重要と促していた(COPARMEXプレスリリース7月12日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

毎週月曜日に公聴会を開催、与党は年内の下院通過を目指す

10月9日に与野党の下院議員で組織される実行委員会を開催し、公聴会で扱うテーマや招集する専門家などを選定する。その後、10月16日から原則として毎週月曜日に公聴会を開催し、11月21日に公聴会を経て形成された合意事項などの結論の発表を行う(主要各紙10月4~6日)。下院の労働社会保障委員会の書記を務める与党MORENAのスサーナ・プリエト下院議員によると、与党としては、現国会の会期末である12月15日までに下院本会議で憲法改正案の採決を行い、上院に送付する意向だ(「インフォバエ」10月5日)。

(注)OECDのEmployment Outlook 2023の就業時間比較データ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、メキシコの労働者の2022年の年間平均労働時間数は2,226時間でOECD加盟国の中ではコロンビア(2,405時間)に次いで長く、OECD平均の1,752時間を大きく上回る。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

ビジネス短信 69a22a3380027cec