小売業復活に向けて識者が議論、持続可能性と外国人観光客に注目

スリランカ小売業協会（Sri Lanka Retailers Association)は10月19日、「小売業の復活」をテーマとするセミナーを開催した。小売業界が抱える課題や新たなトレンド、2022年春以降の経済危機で落ち込んだ業界の復活に向けた方策について、識者が議論した。また、アジア太平洋地域の小売業関係者が集まる「第21回アジア太平洋小売業者大会」が2024年9月にコロンボで、同大会の第22回が2026年10月に東京で開催されることも発表された。

シンクタンクのアドボカータ・インスティテュート（Advocata Institute）の会長で、JB証券（JB Securities）最高経営責任者（CEO）のムルタザ・ジャフェルジー（Murtaza Jafferjee）氏はスリランカの経済状況について、「輸出産業が未熟で貿易赤字が継続していたことに加えて、前政権の減税により歳入が減少したことで、中央政府の対GDP債務比率が高水準に達し、多額の対外債務に陥った」と指摘した。他方、観光客数の回復やインフレの減速、企業の資金需要の拡大が明るい兆しを見せており、経済は回復基調にあると強調した。今後は、国営企業の民営化や公共部門の支出削減、輸出産業振興や外国人投資家の信頼醸成が景気回復の鍵になると説明した。

市場調査会社のカンター・スリランカ（Kantar Sri Lanka）のディレクターヘッドのヒマーリ・マドゥラシンハ（Himalee Madurasinghe）氏は、物価の高騰に賃金の上昇が追い付かず、購買力が大きく低下したと説明した。2022年の実質家計所得は24％減少し、消費者は手軽な価格で購入可能な小型の商品を好むようになっていると述べた。また、同社の調査によると、必需品の内容に変化が生じており、以前は97％の人が紅茶などに使用する粉ミルクを必需品としていたが、現在は50％にとどまるという。他方、消費者に浸透しているソーシャルメディアが購買意欲を高め、オンラインでの食品購入につながっているというトレンドを紹介した。

消費者動向を分析するクルートラック（Clootrack）のスリランカ・モルディブ・パキスタン支社長のロハンタ・アツコラーラ（Rohantha Athukorala）氏は、光熱費の上昇や景気の悪化、食料品価格の高騰により、経済危機以降に消費者の3分の2が食料品や家庭用品などの消費を減らしていると指摘した。その上で、現状を打開するため、海外への新たなブランディングの重要性を強調した。持続可能なプロダクトに関心が高い海外消費者を念頭に置き、主力輸出産業の衣料品や紅茶が労働者の人権に配慮してエシカル（倫理的）に生産されているという点を訴求するよう提起した。さらに、同国に訪れる外国人観光客を引きつけるべく、「ヒョウの密度が世界一」のヤーラ国立公園や、「象の密度が世界一」のミンネリヤ国立公園、「若返りを図る」伝統医療のアーユルベーダ、「アジアの壮大な野外劇」のキャンディ・ペラヘラ祭りといったキャッチコピーを提案した。

ホテルや旅行会社を展開するジョン・キールズ・レジャー（John Keells Leisure）の上級副社長（国際渉外・連携担当）で、ジョン・キールズ・グループ（John Keells Group）経営事業長のディリ―パ・ムダンデニヤ（Dileep Mudandeniya）氏は、外国人観光客が多く訪れる新たなショッピングモールには商機があると指摘した上で、同社の調査によると、86％の外国人観光客が持続可能性を考慮して商品を購入すると紹介し、営業戦略上考慮する必要があると強調した。

消費回復の兆しも

ジェトロが11月24日にインタビューしたコロンボの消費者は、現在の小売産業について前向きに捉えている。ある消費者は、前年よりも商品価格が下がっており、市場の景気回復を実感していると述べた。また、大手スーパーマーケットを訪れていたある消費者は、商品を購入する前に価格をチェックすると述べている。同じ商品でも価格が異なるため、複数の製造日の価格をチェックした上で購入を決定し、最も安い商品を選ぶという。他方、ジェトロが11月21日にインタビューしたスリランカ南部ハンバントタ地区の消費者は、価格上昇のために以前のように必需品を購入する余裕がなくなり、買い物の際には大きな負担を感じているという。特に粉ミルクの価格が高騰して手が届かなくなったため、買わなくなったと語っている。

（ラクナー・ワーサラゲー、大井裕貴）