米下院外交委、BIS検証報告書を発表、輸出管理の改革迫る

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年12月15日

米国連邦議会下院外交委員会のマイケル・マコール委員長(共和党、テキサス州)は12月7日、輸出管理規則(EAR)を管轄する商務省産業安全保障局(BIS)の「90日間検証報告書(90-Day Review Report)」を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は総じて、BISが商業的利益を優先するあまり安全保障をないがしろにしているとし、中国に対してより厳格な輸出管理を促す内容となっている。マコール委員長は中間選挙前の2022年10月に、自身が外交委員会の委員長になれば、BISの検証を行うと発言していた(通商専門誌「インサイドUSトレード」2022年10月4日)。

報告書の主要な検証結果は次のとおり。

  • BISは、規制対象技術の移転、およびエンティティー・リスト(EL)掲載企業への規制・非規制技術の移転を、相当数承認している。BISは、安全保障よりもビジネスを優先させることがあまりにも多い。
  • 中国への米国技術の流出は、中国共産党の「軍民融合」に拍車をかけている。
  • 議会は、中国に関連する輸出管理をより厳格に監視する権限をBISに与えるため、2018年輸出管理改革法(ECRA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを可決したが、BISはECRAに従って強力な規制を作る行動を取っていない。
  • BISは、公式な省庁間の審査プロセスの一部である、安全保障と外交政策機関から重要な意見を取り入れることを、日常的に怠っている。
  • BISは、中国への規制技術の輸出を、事実上全て承認している。また、規制対象ではない技術の多くは、実際には安全保障にとって重要だ。

報告書では、こうした調査結果に対して、主に次の提案をしている。

  • 中国に移転される軍事的に有用な品目はいずれも軍事利用されると考え、少なくとも安全保障上の理由で規制している品目の対中輸出は、全て否認するべき。BISは「原則不許可(presumption of denial)」について明確化するか、議会が成文化すべき。
  • 輸出許可の承認プロセスは、安全保障関連機関の意見を適切に取り入れるよう、改革されるべき。
  • 米国の輸出規制は、(1)BISが安全保障を優先するための大規模な構造改革、(2)複数国間の輸出規制の再活性化や基礎研究に対する新たな規制の導入を含む安全保障関連技術の中国への流出を阻止するための進化、の2つを同時に進めなければならない。
  • BISは人員や資源(予算)不足に陥っているため、ECRAを改正し、BISが輸出許可に手数料を課し、執行努力を支援できるようにすべき。また、関連言語に精通するなど技能を有する担当者の採用に重点を置くべき。
  • BISは、規制対象技術を真剣に見直さなければならない。

調査結果について、マコール委員長は「米国から中国への技術移転を妨げられないことが、中国が世界有数の科学技術大国として台頭する最大の要因の1つだ」とし、「米国はこれらの新興技術において、どんな犠牲を払っても勝つという考えを持ち、イノベーションに投資しながら、中国による米国の重要な技術へのアクセスを拒否し、遅らせなければならない」と強い危機感を示した。

今回、報告書で指摘されたいくつかの点は、過去にも問題視されていた。外交委は2021年10月に、ELに指定された華為技術(ファーウェイ)と中芯国際集成電路製造(SMIC)向けの輸出許可申請の承認状況に関する報告書を公表した。両社とも輸出申請をしても「原則不許可」の方針がとられているにもかかわらず、当時、ファーウェイ向けは69.3%、SMIC向けは91.3%が承認されていた(2021年10月26日記事参照)。

また輸出管理の規制対象を、安全保障上の理由から見直すことが提案されたが、BISは過去にECRAで規定された安全保障上重要となる、新興・基盤的技術の特定を断念している(2022年5月24日記事参照)。BISにとっては難しい課題があらためて提示されたといえる。

さらに、報告書では、BISの予算不足が指摘されているが、マコール委員長は、単純な予算増には賛成していない(2023年12月13日記事参照)。代わりに、外交委の大半の意見として、手数料徴収を提案している。商務省のジーナ・レモンド長官がBISの予算増を実現するためには、手数料の徴収や規制対象の見直し、安全保障関連機関との連携など、今回報告書で示された提案を一定程度考慮する必要がありそうだ。

(赤平大寿)

(米国、中国)

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