EU、建物のエネルギー性能指令改正案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月15日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月7日、建物のエネルギー消費と温室効果ガス(GHG)排出の削減を目指す、建物のエネルギー性能指令の改正案に関し、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同改正案は、2030年のGHG排出削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の第2弾として、欧州委員会が2021年12月15日に提案したもの(2021年12月17日記事参照)。今後、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て施行される見込み。なお、現時点で今回合意された法文案は公開されていない。

建物部門はEUのエネルギー消費の約40%、エネルギー関連のGHG排出の約36%を占め、約75%の建物はエネルギー効率が悪く、エネルギー改修率は年平均1%程度にとどまっている。同改正案の焦点の1つだった最低エネルギー性能基準については、非居住用建物は改修率、居住用建物はエネルギー消費率で評価することになった。欧州委の提案は、エネルギー性能証明書で用いられる7段階(A~G)の性能評価カテゴリーで、各加盟国でのエネルギー性能最下層15%(評価導入時点)に該当するG評価を次のとおり引き上げる内容だった。(1)非居住用建物は2027年1月1日(以下、年初)までに最低でもF評価以上、2030年初までにE評価以上、(2)居住用は2030年初までにF評価以上、2033年初までにE評価以上。

今回の政治合意では、(1)エネルギー性能最下層非居住用建物については、2030年までに16%以上、2033年までに26%以上を改修し、(2)居住用は2030年までに16%、2035年までに20~22%のエネルギー消費削減を定めたかたちとなった。居住用はうち、55%はエネルギー性能最下層建物の改修で達成する必要がある。現地報道によると、ドイツなど一部の国による、居住用建物の改修基準は各加盟国の裁量とすべきとの意見を踏まえた内容となった。

「リパワーEU」に基づき、太陽光発電の設置を義務付け

今回の政治合意では新たに、「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)に基づき、技術的、経済的に適切である場合、太陽光発電の設置を加盟国に義務付けた。設置期限は、新築の建物の場合、有用な床面積が250平方メートル以上の公共施設、非居住用建物は2026年12月末年まで、居住用建物は2029年12月末まで、既存の建物は床面積などに応じて定められた。また、新築・改修中の建物は非居住用、居住用ともに、駐車スペースを有する場合、電気自動車用の充電インフラとして電気配線を準備することが加盟国に義務付けられ、代替燃料インフラ規則(2023年8月2日記事参照)を補完するかたちとなった。

このほか、2040年までに化石燃料を使用したボイラーの完全廃止を目指すべく、各加盟国で、建物の冷暖房設備における脱炭素化と化石燃料の使用を段階的に廃止する措置を講じることとした。また、化石燃料のみを使用したボイラーの設置に対する公的資金援助の禁止については、開始時期を欧州委案の2027年初から2025年初に前倒しすることで合意した。

(薮中愛子)

(EU)

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