欧州会計検査院、気候中立目標に向けゼロエミッション車の普及を提言

(EU)

ブリュッセル発

2024年01月31日

欧州会計検査院(ECA)は1月25日、新車の乗用車の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の実施状況を評価し、EUの2050年までの気候中立目標に向けて課題を分析する報告書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。報告書は、新車のCO2 排出削減目標と、気候中立に向けた2030年までの中間目標(1990年比で少なくとも温室効果ガス排出量を55%削減)は見合ってこなかったとして、ゼロエミッション車の普及が課題と指摘した。手頃な価格の実現とインフラ整備、バッテリーを製造するための原材料確保が重要だとした。

報告書によると、新車からのCO2排出量は2020年から急減し始めたが、主な要因は電気自動車(EV)の普及であり、内燃機関搭載車からのCO2排出は実質的には減少していない。懸念事項として、内燃機関搭載車とプラグインハイブリッド車の排出量を挙げ、自動車メーカーが新車の型式認証に申告したCO2排出量の正確性が十分に担保されていないと指摘した。

一方、進捗も評価した。EUではフォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題(注)を機に、2017年9月から新たな燃費測定基準を導入。2018年9月以降は、新車登録される全ての車を対象に、実走行状態に近い計測結果が得られる「国際調和排ガス・燃費試験方法(WLTP)」を適用している。報告書は、これにより実証実験と実走行での排出量の計測の差が縮まったと評価した。また、欧州委員会が2022年から新車に搭載されている計測器からリアルタイムで排出データを収集し、2021年以降に登録された新車からは、実証実験と実走行の排出量の乖離を把握・監視できていることも評価した。

これらの現状を踏まえて、次の政策提言を行った。

  • 2025年までにメーカーが公表した新車の排ガスレベルの正確性を高めるため、加盟国の型式認証当局による検査の確実な実施、型式認証に記載されたデータを保証するための加盟国支援、消費者のニーズに合わせた実燃費に関する情報提供の支援、現行のCO2排出量実証方法の監視を行い、必要に応じ是正措置を講じる。
  • 加盟国の型式認証当局向けに電子証明書の標準化や使用に向けた支援を行い、将来的に、EUレベルで電子形式のみを使用するための法的要件を評価するなど、データの収集と検証のために電子ツールを有効に活用する。
  • 2026年までにCO2排出量に影響を与える重要な要素に焦点を絞り、EUおよびメーカーレベルの平均CO2削減量に基づく現行目標を、ゼロエミッション車の最低シェアに基づく目標に置き換えることや、ハイブリッド車も含めた全車両に対しメーカーにCO2の「実際の排出量」の上限を導入することの実現可能性や費用などを評価する。

(注)2015年に発覚した、VWが排ガス規制を回避するために不正なソフトウエアを一部のディーゼルエンジン車に搭載していた問題。

(大中登紀子)

(EU)

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