米USTR、中国のWTO協議要請に対する声明発表、IRAの気候変動対策としての正当性強調

(米国、中国)

ニューヨーク発

2024年03月27日

米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は3月26日、インフレ削減法(IRA)に関する中国のWTO紛争解決手続きに基づく協議要請に対して声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

中国が米国の通商専門誌「インサイドUSトレード」(3月26日)に提供した英文の声明によると、中国は同国の「電気自動車(EV)産業の合法的な利益を保護し、世界市場で公平な競争条件を維持するため」に、WTOによる紛争解決手続きを開始した。これに対し、タイ代表は、IRAは米国が世界的な気候変動危機に真剣に取り組み、米国の経済競争力に投資するための画期的な手段とした上で、「IRAはわれわれが同盟国やパートナーとともに求めている、クリーンエネルギーの未来への貢献だ」と主張した。一方で、中国に対しては「不公正な非市場的政策や慣行を用いて公正な競争を弱体化させ、中国国内や世界市場における中国の製造業の優位性を追求し続けている」と批判した。

2022年8月に成立したIRAは、歳出の約8割が気候変動対策に充てられており(2022年10月6日付地域・分析レポート参照)、バイデン政権は米国史上最大規模の気候変動対策と位置付けている。IRAに基づく補助金を受給するには、米国で一定程度生産する必要があるなどの要件を定めている。例えば、EVなどクリーンビークル(注)の購入に対する税額控除の適用要件には、車両の最終組み立てが北米で行われていること、バッテリー材料の重要鉱物の一定割合を米国が自由貿易協定(FTA)を結ぶ国から調達などを行うこと、重要鉱物や部品の生産に「懸念される外国の事業体」の関与が限定的、あるいは、ないいことなどを定めている(2023年12月6日記事参照)。他方で、こうした要件がWTO協定の最恵国待遇や内国民待遇の違反になる可能性があるとの指摘もあり、EUや韓国などは懸念を表明していた(2022年9月29日記事参照)。

米国と中国の協議によって60日以内に解決されない場合、WTOの紛争解決手続きにのっとり、中国はWTOの紛争解決機関(DSB)にパネル設置を要請できる。パネルでも解決できなかった場合には、上級委員会にあらためて審理を行うよう要請できる。しかし、上級委員会は米国による新委員の選任拒否によって機能停止に陥っている(2023年8月29日付地域・分析レポート参照)。3月2日に閉幕した第13回WTO閣僚会議(MC13)では、紛争解決制度の改革が議論されたが、大きな進展はみられなかった(2024年3月6日記事参照)。

(注)バッテリー式EV(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。

(赤平大寿)

(米国、中国)

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